さんにっぱ

2011年7月29日|

 フィルムカメラ(35ミリ)のレンズで「サンニッパ」と言えば、焦点距離300ミリ、明るさ(f)2.8。とても明るい超望遠レンズ、でした。その引き寄せ効果や、ぼかし効果は絶大!シャッターも高速で切れて、ネイチャーフォトやスポーツ写真をはじめ、色々な撮影シーンで、ものすごい描写力を発揮していました。アマチュアカメラマンなら一度は憧れる交換レンズの横綱、でした。もちろん値段も超横綱級。何十万円もするので、とてもじゃないが手が出ない高嶺の花。出るのはため息ばかり。それが「サンニッパ」でした。

 先日、リサイクルショップをのぞいたら、その「サンニッパ」が、なんと3万円ちょっとで売っているじゃあありませんか!びっくりです。程度も悪くなさそう。20年前なら信じられない値段!後先考えずに購入していたことでしょう。そう、フィルムカメラが幅を利かせていた頃だったら・・・。

 しかし、悲しいかな、今はもうデジカメの時代。登場した当時、あまりの画質の悪さに「こんなのはカメラじゃないよ」と嘲笑していたのもつかの間。その後、画質は飛躍的に向上。パソコンやプリンタ、さらに記録メディアの性能もびっくりするくらい良くなって、その場で撮って即確認&印刷が簡単にできるようになりました。画像の編集もすごく簡単です。

 かつては暗室に閉じこもり、現像とプリントに悪戦苦闘した頃もありました。特にフィルムの現像時間は、温度によって左右されるので大変。せっかく苦労して撮影したのに、現像ムラができて台無しになったこともありますが、今となっては笑いぐさです。プリントの際には、焼きを多くしたい所以外を手や紙で隠し、現像機のペダルを踏んで加減していました。納得の一枚が焼けるまで、何枚も失敗しましたが、それで培われた経験と勘は、今では何の役にも立ちません。

 また、今は残り枚数を心配する必要は皆無と言ってよいでしょう。フィルムの時代、「何が起こるかわからないから、1枚は必ず残しておいて、いざという時に撮れるようにしておけ」と、報道カメラマンから習ったのも、懐かしい想い出です。「ハーフサイズ」と言って、36枚撮りフィルムで72枚も撮影できるカメラがあって、旅行の時など重宝したものですが、もちろん今は無用の長物です。超高画質のISO25のポジフィルム(いわゆるスライド用フィルム)や、超高感度のISO3200のフィルムなどは値段も高く、袋に入れて、冷蔵庫で大事に保管していました。それが今や、カメラ(コンパクトカメラでも)のボタンを押すだけで(自動でできるのもあります)、感度が自由に上げ下げできてしまいます。脱帽です。フィルムを入れたのに巻けていなかったため、現像したら何も映っていなかったとか、巻き戻す前に裏蓋を開け、光が入ってダメになったとか、はたまた最初からフィルムを入れ忘れていて、帰ってみたらカラだったとか、感度設定を間違えて全部露出オーバーになったとか、フィルムに関する笑えない失敗は結構あったものです。

 一方、デジカメの場合、レンズの焦点距離は、「35mmフィルム換算で〇〇mm相当」などと表現するように、カメラによって(撮像素子のサイズによって)焦点距離と画角はまちまちになってしまいました。「このサンニッパが目に入らぬかぁー!」みたいに言えなくなってしまったわけで、なんだか釈然としませんが、それでも性能の向上は目を見張るばかり。小さく、軽く、ピントはすばやく、手ブレも防ぐ。そもそも、「ピントが自動的に合う」なんて、「夢のカメラ」と言われていた時代もあったのです。

 とまあ、このようにカメラは、いやデジカメは、加速度的な進化を遂げてきました。おかげで、難しい知識や技術が無くても、簡単に綺麗な写真が撮れるようになりました。フィルムの残りも気にせず、じゃんじゃんシャッターが押せるようになりました。ただ、便利さの陰で、失ってしまったものはないだろうか?と一抹の不安もあります。残り枚数を気にしつつ、絞りとシャッタースピードを考えて、向かって来る被写体には前方にピントを合わせて一瞬のシャッターチャンスを待つ。そんなワクワク、ドキドキ感は希薄になってはいないだろうか?そして何よりも、限られた枚数で「こんなシーンを、こういう構図で撮ろう。そしてこの一枚で、こういうことを伝えるのだ!こういう想い出を残すのだ!」という目的意識は曖昧になっていないだろうか?と思うのです。目的を果たすために手段が簡便化されたのに、「操作は簡単だし、何枚でも撮れるから」と、肝心の目的が曖昧になってしまっていたとすれば、本末転倒です。

 さて、このことは、私たちが老健で使う道具についても、同じような事が言えるかもしれません。介護用品は日進月歩の勢いで新商品の開発が進められています。介護する人、される人双方に恩恵をもたらすものもたくさんあります。しかしそれは、その人にとって必要な用具を適切に、安全に使用するとともに、その使用状況を定期的に評価・検討することが前提で、それによって介護負担の軽減と、心身両面の自立につながっていかなければならないと思います。便利だからといって、何でも見境無く導入し、使いっぱなしにしていた結果、それまでできていたことができなくなったり、やらなくなったり、リスクにさらされたりしていたら、やはり本末転倒ということになるのではないでしょうか。

 まず、使う目的を明確にする。その前提として使おうとする人(介護する人、される人)の心身の状態や諸環境を正しく評価し、使用の妥当を検討する。使用に当たってはその正しい使い方を指導するとともに、定期的に使用状況を評価し、使用することが本来の目的達成につながっているか。続けて使用するべきか否か、別の用具もしくは代替手段に変更するか?等々の取り組みを継続していく事が大切だと、「サンニッパ」を眺めながら考えた次第です。

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