噴飯もの

2013年10月31日|

 マスコミ各社が報じ、記憶に新しい方も多いかと思いますが、「流れに棹さす」、「役不足」、「気が置けない」などといった慣用表現を誤って用いる人が増えているのだそうです。925日付けの「慣用表現の誤答目立つ」という見出しの日本経済新聞の記事には、「会話に支障も」というサブ見出しが立っていました。

 これは文化庁が925日に発表した2012年度の国語に関する世論調査の結果に関する内容。それによると、「傾向に乗ってある事柄の勢いを増すような行為」に用いる”流れに棹さす”を「傾向に逆らって、ある事柄の勢いを失わせるような行為」という正反対の意味に使う人の割合が2.5倍以上もいたのだそうです。同じように、「役不足(本人の力量に対して役目が軽すぎること)」、「気が置けない(相手に対して気配りや遠慮をしなくてよい)」なども、逆の意味に使う人の方が多いという結果が示されており、なるほどこれでは会話に少なからぬ支障を来しかねないと思いました。

 そういう慣用表現の一つに「噴飯もの」も取り上げられていました。本来の意味は「おかしくてたまらないこと」。つまり、我慢できずに口の中のご飯を噴き出してしまうくらいおかしい、ということですが、これを「腹立たしくて仕方がないこと」、つまり怒髪天を衝く(注:頭髪の逆立った、ものすごい怒りの形相。「怒髪天に達す」は誤り)ほど腹が立って、口の中の食べ物を噴き出しながらどなりちらす、という正反対の意味に用いる人の割合が倍以上いたとのことです。

 食事中の人がこのニュースに触れて、おかしくて噴き出すか、あるいは怒りのあまり噴き出すか、それはともかく、食事中に口から食べ物が出てくるという現象自体、正常な咀嚼および嚥下の流れとは正反対であることに疑う余地はありません。そして私たち老健施設に勤める者にとって、この現象には最大限の注意、そして対応が必要です。なぜならば、誤嚥性肺炎、さらには窒息のリスクに直結するからです。

 この記事が出る4日前の921日当協会支援相談員研究部会が開いた全体会(研修会)で、潤和リハビリテーション振興財団潤和会記念病院リハビリテーション歯科の歯科医師、清山美恵先生に、経口摂取と口腔ケアについて講演をしていただきました。その中で清山先生が摂食・嚥下障害に関して、このように言われていたのです。

「(摂食・嚥下障害の)更なる問題点は、胃の内容物が逆流することです。胃の中からもどしてきて、それが口から外に出てくれる力があればいいのですが、それができずにそのまま飲み込んで、それが気管に入り、更に肺に入る、これも誤嚥の一つです。運の悪い事に胃の中は非常に酸性度が高いので、肺に入っても酸性の状態になっています。それだけだったら抗生剤で治せばいいのですが、困るのはそれがのどで詰まってしまった場合です。食道を逆流したものが気管の中に入ってくれば肺炎で済みますが、気管をふさいでしまったら窒息です。抗生剤うんぬんの問題ではなく、死ぬんです」(参照:当協会10月1日付けブログ:http://www.miyazaki-roken.jp/blog/2013/10/2-8.html)・・・。

 喜怒哀楽、様々な感情が交錯するのが人間の性ですが、食事中に誤嚥、そして噴飯につながるような感情の乱れを招くことは、生命の維持が第一義であるところの食事が、逆に生命の維持を危ぶませることにつながりかねません。ですからこの場合、おかしくて「噴飯」、はたまた怒って「噴飯」、どちらもNGです。

 落ち着いて食事が摂れるよう、環境設定には十分配慮するとともに、咀嚼・嚥下が安全に行えているかを確認しながらケアにあたらなければならないという思った記事でした。

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