宮尾登美子さん逝去

2015年1月28日|

 「天璋院篤姫」や「鬼龍院花子の生涯」などの小説で知られる作家の宮尾登美子(みやおとみこ)さんの訃報が18日の新聞各紙で伝えられました。亡くなられたのは昨年の1230日、老衰のためとのこと。

 同日付け日本経済新聞に「苦難を乗り越えて強く生きる女性たちを描いた」と紹介されている宮尾さんの作品の中に、「蔵」という長編小説があります。19923月から19934月まで毎日新聞に連載されていた当時から大きな反響を呼び、その後同年9月に毎日新聞社から出版され、テレビドラマや映画、そして舞台でも演じられました。

 「蔵」は大正から昭和にかけての新潟県の酒蔵を舞台に、全盲となった女性、田乃内烈が、ハンディを負いながらも前向きに生きて、父意造の酒蔵を継いでいく長編小説です。実母賀穂が若くして世を去り、後妻に治まったせき、賀穂の妹で病弱な姉に代わり意造へ密かな思いを寄せながら烈を育ててきた佐穂などが登場し、女同士の愛憎が入り混じる複雑な関係の中、烈は美しく、たくましく、「四感」を働かせて生きていきます。脳卒中で半身不随となった意造が、酒蔵「冬麗」を手放そうと考える中、烈は断固たる意思を持って田乃内家と「冬麗」を継いでいきます。また後に杜氏の涼太に初恋、周囲の反対を押し切り、成就させます。

この作品は、(財)日本障害者リハビリテーション協会発行の「『ノーマライゼーション 障害者の福祉』199512月号(第15巻 通巻173号) 21頁から23頁」の中で「文学にみる障害者像」として筑波大学附属盲学校の大内進教諭により「障害を乗り越えて、一女性として、男性中心の社会に切り込み、家業の酒蔵を継いでいく烈の自立した生き方に感動を呼ぶものがあったのであろう」と取り上げられています(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n173/n173_021.html)。

 上下2巻からなるこの作品は、必ずしもハッピーエンドというわけではありませんが、当時の世の中の習慣や偏見を打ち破り、障害を乗り越えて生きて行く烈のひたむきさに深い感銘を覚えました。作品の内容はもちろんのこと、土佐出身の宮尾さんが、新潟弁による難解な言い回しを駆使して(ご自身が新聞連載中に「毎回のように誤りを指摘された」と述べてはいますが)書き上げた力作だと思います。

「障害を持つ人がほかの人びとと同様に生活の糧を得て、住んでいる家庭や地域を動きまわり、特別の集団でなく、障害をもつ普通の市民として生活する」というノーマライゼーションの精神を、作品を通じて教えていただいたことは、老健施設に働く者の一人として感謝の念に絶えません。宮尾登美子さん、本当にありがとうございます。ご冥福をお祈りします。

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