相手を生かす愛、相手をゆるす愛
「愛するとはね、相手を生かすことですよ」・・・。
これは三浦綾子さんの小説、「ひつじが丘」に出てくる言葉です。主人公の広野奈緒実が、想いを寄せる杉原良一との結婚の許しを両親に願い出た際、母親の広野愛子が奈緒実に対し、このように述べています。
またこれに続いて、父親の広野耕作が「愛するとは、ゆるすことでもあるんだよ。一度や二度ゆるすことではないよ。ゆるしつづけることだ」とも諭しています。
平成27年度の介護保険の報酬改定では、利用者の「活動」と「参加」に焦点が当てられ、そのためのリハビリテーションを提供していくことが重要視されています。介護を必要とする人が、住み慣れた自宅や地域社会で活動、参加していくこと、それは愛子の言う「相手を生かすこと」につながるのではないでしょうか。
また今回の改定では認知症高齢者に配慮したリハビリテーションの促進も提唱されています。認知症の人にみられる不安や妄想、徘徊、興奮などの行動・心理症状(BPSD)はその人が発しているSOSのサインであり、これに対して「なんでそういうことをするのか!だめじゃないか!!」などといった理解不足や不適切なケアが症状を悪化させるばかりでなく、高齢者虐待につながりかねません。そうならないためには、症状が発生した要因や理由、目的などをその人ごとに考えていくことが大切ですが、その前提として耕作の言う「愛するとは、ゆるすこと」という考え方が重要なのではないかと思います。
「ひつじが丘」は昭和41年(1966年)12月に主婦の友社より刊行され、文庫本としては講談社文庫から昭和55年(1980年)9月15日に第1刷が発行された後、平成15年(2003年)4月28日に第58刷が出ていますから、それだけ多くの人々に愛読されているのではないかと思います。今回の改定が意図するところを深く掘り下げて考えるために、この作品をもう一度読み直してみたい・・・。そのように考える次第です。