「九月の空」は五月におすすめ

2012年5月15日|

 五月なのですが、「九月の空」という本を紹介いたします。著者は高橋三千綱。河出書房新社から出されたのは昭和53年ですから、今から34年も前です。第70回芥川賞受賞作品です。

 剣道に打ち込む高校一年生、小林勇が主人公。その道を極めたい勇が、仲間や先輩、異性、そして姉や両親と接する中で、悩みながらも成長していく物語です。同年齢の石渡は他校の生徒。剣道一家に育つ石渡に、勇はどうしても勝てない。その一方で、同級生の松山との間に芽生える想い。「バー・ヨーコ」でのバイト。父は売れない画家、それを支える保険外交員の母。快活な姉。そんな中で苦悶する勇は果たしてどういう成長を遂げていくのでありましょうか・・・。

 とまあ、そんな内容なのですが、なぜゆえこの5月に「九月の空」を薦めるのか?というと、この作品は「五月の傾斜」、「九月の空」、「二月の行方」の三部構成からなる純然たる青春小説なのです。さわやかなのです。剣道に打ち込む高校一年生の勇の姿が、みずみずしい感動を与えるのです。五月の澄み渡った空、そして薫る風のように、青い、青い、どこまでも青い青春ストーリーなのです。そして本の表紙もこれまた青!青春のすばらしさを再認識させられる名作。これはもう、五月に読むっきゃない!です。

 これを読むと、自らが青春時代に戻ったような、みずみずしく、すがすがしく、そしてちょっぴり甘酸っぱい気持ちになりました。そして、青春に定年はないのではないか?とも思いました。すなわち、老健施設の利用者様に対しても、若々しい、生き生きとした気持ちを持ってもらいたい!過ぎ去った、あるいは謳歌できなかったそれぞれの青春を、今こそ満喫してもらいたい!!と、そんな気持ちになる一冊です。主人公の勇が現存していれば、当年とって50歳になるところですが、34年前であることを感じさせない、新鮮さすら覚える作品です。ぜひご一読あれ。

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