ハラスメント研修会開きました(看護介護部会:その12)

2014年1月21日|

【ハラスメントの対処方法:(2)ハラスメントの再発防止策・予防策】

ハラスメントに対処するための「事実関係の迅速かつ正確な確認」について説明しましたが、続いて「ハラスメントの再発防止策・予防策」について話します。

まずは「ハラスメントの防止について、どのような方針をとっているか」についての方針を明確にし、周知・啓発することです。「ハラスメントは絶対許さない!あってはならない行為だ!」という強い宣言を就業規則の中に明記することです。また、施設長や経営者がはっきりと「ハラスメントは犯罪だ」と明言する必要があります。

次に「ハラスメントを起こした場合、どのような処分を受ける可能性があるか」について、就業規則や服務規程、社内報、パンフレットにホームページなどで明確にしておくことです。

さらに、ハラスメントに関する窓口を設置し、担当者を任命するとともに、社内に周知することです。

 

【ハラスメントの予防:ベルギーでは・・・】

ハラスメント防止に関して先進的であるベルギーの「職場でのハラスメント防止立法の骨子」をスライドに示します。

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この中で特に「8.ハラスメントを行う者を更正させるための治療を受けさせる」に注目してください。「ハラスメントを行っている人も、ひょっとしたら何らかの病気かもしれない。従ってその人を更正させるための治療も受けさせなければならない」ということです。ここは重要です。

 

【職場におけるハラスメントと法】

 職場におけるハラスメントに関する法律を見てみましょう。刑事責任について犯罪が正立する類型として名誉毀損罪、侮辱罪、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪などがあります。一方、民事責任については不法行為、安全配慮義務違反などがあります。

民事責任のうち不法行為は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」というものです。「福岡Q企画出版社セクシャル・ハラスメント事件」や、「川崎市水道局いじめ自殺事件」などの判例があります。不法行為では安全配慮義務違反構成の場合とは異なり、加害者個人の責任が認められ得ます。また、会社の業務上の方針に従ってなされた、いわゆる組織的過失に当たるような場合でも、原則として免責されません。「見て見ぬふりをする」のも荷担です。直接的に関わっていなくても荷担になります。さらに、会社に使用者責任が認められた場合にも、当該加害者への求償がなされ得ます。

次に、安全配慮義務については、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等(心身含む)の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。さらに「対象者の安全衛生を左右できる立場にある者(:指揮命令権、労働条件設定権限など安全衛生管理の権限と可能性を持つ者=直接的な契約関係はなくて良い)が、予見可能、回避可能な災害疾病について、その防止のために可能な物的・人的手段を尽くす義務」とあります。ですから傍観は許されません。

この安全配慮義務違反に関する判例としては、「電通事件」の判例があります(最小判平成12324日労判77913頁)。これによると、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」とあります。

このように、ハラスメント対策の懈怠(けだい:なまけ、おこたること)、特に現に行われているハラスメントの放置は、使用者の安全配慮義務違反と解されるようになってきています。

最近の特徴的な裁判例として「地公災基金愛知県支部長(A市役所職員・うつ病自殺)事件」があります(名古屋高判平成22521日労判1013102頁【上告】)。これによると、当時の配置部署の業務自体にかかる心理的負荷へ加え、上司自身は担当部署の業務に詳しく、部下への注意・指導の内容もおおむね正当だったものの、人前で大声を出して高圧的、攻撃的に非難・叱咤する、部下への個性や能力へ配慮しない点で「パワーハラスメントに当たる」と明言されています。このように、パワーハラスメントが法的概念として司法上採用され得ることや、その態様などとともに「部下の個性や能力への配慮」の欠如が判断要素となり得ることがうかがわれます。

(つづく)

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