経口摂取・口腔ケア学びました(支援相談員部会:その1)

2013年9月30日|

  公益社団法人宮崎県老人保健施設協会支援相談員研究部会は921日、宮崎市の宮崎観光ホテルで全大会を開きました。会員老健施設等から98人が参加し、経口摂取と口腔ケアについて学びました。

 

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 講師は潤和リハビリテーション振興財団潤和会記念病院リハビリテーション歯科の歯科医師、清山美恵先生。清山先生は2005年に九州大学歯学部を卒業後、同学部顎口腔外科や宮崎歯科福祉センターを経た後、同病院に勤務し、現在に至っています。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の学会認定士であり、摂食・嚥下のスペシャリストとして活躍中です。この日も岡山での学会発表を控えた忙しい中をぬって講演に駆けつけて下さいました。口腔ケアは口だけの問題ではなく、身体全体に大きく関わるもので、特に我が国の死亡原因の第3位に上がった肺炎を予防する上で重要な役割を果たすことを学んだ、貴重な研修会となりました。

 その講演のあらましを連載していきます。

 

≪講演のあらまし≫ 

 

  今日は経口摂取と口腔ケアということで、依頼があった時、大した話はできないとお断りしようと思ったのですが、つたない知識の中で皆さんに話せたらいいと思います。こういう場を設けていただいてありがとうございます。

 経口摂取と口腔ケアというタイトルで話しますが、私の専門が摂食・嚥下リハビリテーションというところなんですけども、みなさん各施設などで点数のとりかたとか、どのように進めていったらいいかということを話してほしいということなので、そこに力を置いてはなしていきたいと思います。

 

【1.「経口摂取」とは? 「経口摂取」には?】

【嚥下のメカニズム】食物を認知して口腔に取り込み、咀嚼(そしゃく:かみくだくこと)により食塊(肉団子みたいなひとかたまり)を形成し、これを嚥下して胃に送り込む過程を嚥下といいます。気管の前を食道が通っていると思いがちですが、気管が前にあって後ろを食道が通っています。嚥下のメカニズムは
(1)先行期(認知期:見て、におって)、(2)準備期、(3)口腔期、(4)咽頭期、(5)食道期の5段階があります。

 食べ物を食べるとどうなるか、というと、食べ物は口からとったものが食道を通って、胃の中を通って小腸に行って、小腸から大腸に行って老廃物が排泄されます。この一連が食べる事・飲むことに大きく関わってきます。食べるというのは口の中でモグモグして飲み込むまでと思いがちですが、これら全部を捉えて経口摂取というところをわかっていただきたいと思います。

 死因別死亡率をスライドに示しますが、重要なポイントは肺炎と脳血管疾患です。脳卒中関係で亡くなる人は半数近くに下がってきました。これは昔の脳卒中の程度が重くて、今が軽いわけではありません。医療技術が進み、いい薬が出てきて下がっているのですが、助かる状態に違いがあって、かつては助からなかったけど、今はかろうじて助かる状態にあるという人がいます。非常に後遺症の強い方たちが半数近くに増えてしまっています。結果として脳卒中を起こしてついてくるのは誤嚥性肺炎。もれなくついてきます。案の定、脳血管疾患の死亡率は減りましたが、肺炎での死亡は急激に増えてきています。

 平成23年まで死亡率第3位だった脳血管疾患は平成24年に第4位になり、肺炎が第3位に上がりました。この事実を私たちは本当に深刻に受け止めなければなりません。特に老人保健施設などの介護保険施設は重大な問題になってきます。

 肺炎と脳卒中となんで関係があるのか?と思うかもしれませんが、肺炎と口腔内細菌は非常に関係があるということがわかったのです。誤嚥性肺炎の主な病原菌をスライドに示しますが、グラム陰性菌のPorhyromonass gingivalls(ポルフィロモナス・ジンジバリス)などの嫌気性桿菌は歯周病の代表的な菌で圧倒的に多いです。グラム陰性菌では口腔内嫌気性球菌が多く、歯ぐきの深いところに入って様々な悪さをする菌です。

 米山武義先生らの発表によると、要介護高齢者施設で2年間のうち7日以上発熱した者、肺炎で入院した者、肺炎による死亡者は、口腔ケアをした人たちが、しなかった人たちと比べて統計学的に有意に低いことが示されている通り、口腔ケアをした人としない人とでは大きな違いがあります。口腔ケア、つまり歯磨きをするだけで肺炎は半数に減るのです。やるだけでいいという話です。それにより死亡者は劇的に減るわけです。また発熱は肺炎だけではないのですが、これも半数近くに減ります。

 また、頭頸部癌患者の口腔ケアを術前、術後に行った者では、行わなかった者に対し、瘻孔形成、創部感染、肺炎などの二次感染の発症率が4分の1くらいに確実に減っていきます。このデータがあれば「なるほど口腔ケアしないといけないな」となります。

 ただし、皆さんの中に朝ごはん食べて歯を磨いていない人がいると思いますが、それでも肺炎にはならないですね。そこのところも大事ですので頭に入れておいて下さい。

 また、同じく米山先生が調べた要介護高齢者における2年間の肺炎発症率は、口腔ケアをした方が、しなかった方より低いことが示されています。これは口腔ケアをすると菌の数が減りますが、誤嚥した場合、その食べ物のかたまりの中に菌が1万いるのと、100いるのとでは全然違うわけで、数が少なければいい、という事が言えるわけです。また、歯磨きをするとナチュラルキラー細胞の動きが活発になり、免疫力が上がり、肺炎になりにくくなります。

(つづく)

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