研修会開きました(栄養給食部会、その5)

2013年8月2日|

【嗅覚・味覚障害と食の記憶障害】

 嗅覚・味覚障害がなく、食の記憶障害もない場合、食べ物を見て、その見た目や臭いと記憶が一致すれば、つまり「思う味が一致」すれば「美味しい」と感じます。

 しかし、嗅覚・味覚障害があって、食の記憶障害がない場合は、「思う味」と違う味となります。つまり、「期待したものじゃなかったので、もう食べない」となったり、食べたけれど「何か変だな?」となるなどして、食の誤認や食への拒否が生じかねません。

 また、嗅覚・味覚障害はないが、食の記憶障害がある場合は、現在の味と対比することができません。味覚に対して不思議な感覚をもつが、学習できないなど、どういう風に食べ物をとらえているかわからなくなっています。

 

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【認知症高齢者の味の再生障害】

 認知症高齢者の食と味の認知を考える上で重要なのは、認知症高齢者の味の再生障害がおきているということです。認知症の人の多くは、私たちが思っている味ではない味を頭の中で、口のなかで再生していると考えた方がいいわけです。

 この認知症高齢者の味の再生障害には、高齢者ゆえの問題として視力障害による情報の減少、嗅覚・味覚の変化による嗜好の変化、食事摂取量減少による亜鉛量の減少、薬剤に起因する亜鉛の排泄促進・吸収障害および唾液量減少などが、また認知症者ゆえの問題として嗅覚・味覚障害や味の記憶障害などが関わっています。

 見て、嗅いで、記憶の情報ができます。そこで味覚の記憶と食べ物の記憶とあわせて、一致したら「このようにして食べよう」という摂食行動が起こります。そして食べてみて口腔内の化学・物質刺激があって、どういうかみ方をすればいいか、という咀嚼行動に出ます。そしてそれは「こんな味だった」という味覚情報として大脳の方に戻されます。それが記憶と一致したときに「美味しい」と感じます。

 もしこの経路のどこかが侵されていたら、情報が行き来しなくなって「美味しい」という合致した答えが出ないのかもしれません。

 

【いずれは私たちもいく道】

 皆さんの施設でも色々な工夫をしていることでしょうが、利用者が果たしてどこまで認知されているか?味をどこまで理解されているか?を考えないといけないと思います。

 認知症高齢者が食と味を認知できないことを考えていたでしょうか。食事の記録をするときはどうしても「食事は何割摂取、嚥下障害、ムセなし」などとなっていたのではないでしょうか。食事の際、「喜びの表情があった、会話があった、”おいしかった”があったかどうか?」などを記録にしないというか考えてないような気がします。

 認知症の方がどんな味で食べられているかをもう一度考えていいのではないでしょうか?私たちもやがて行く道です。その時に少しでもいい物が食べられると思えば、今どうにかすればいいのではないでしょうか。このことは私の反省でもあります。

 Maslowの「人間の欲求5段説」にもある通り、食べることは人間のもっとも原始的な生理*的欲求です。認知症の人はそれによって食べられているかもしれませんが、その人にとって少しでも美味しい物を考えていってあげることも大事ではないでしょうか。私も研究していきたいと思います。皆さんも「”これがおいしいからおいしいですよ”、ではない」ということを頭にいれられた方がいいのではないかと思います。

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(講演終わり)(つづく)

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