史上最大のバーゲンセール

2011年12月7日|

  年の瀬の風物詩と言えば、バーゲンセール。街を歩けば「大売出し」「〇〇%OFF!」などのポスターと商品の山、大声で呼び込みをかける店員、そして群がる客の姿。他の季節にもバーゲンはありますが、お歳暮やクリスマス商戦も相まって、冬のそれはもっとも活気があるように思えます。そしてそのまま年末の正月準備、さらに間髪いれず初売りセールとにぎわいが続きます。

 さて、そんな折ですが、「史上最大のバーゲンセール」という文言があるのをご存じでしょうか。それは芥川賞作家の新井 満(あらい まん)さんの『サンセット・ビーチ・ホテル』(文芸春秋)という著書に収められている、『サンライズ・ステート・ビル』という作品の中で見つけました。

アメリカ、ニューヨークはマンハッタン島を訪れた主人公の女性に、現地の青年が島の歴史を説明します。それによると、1624年、オランダ人が同島を占拠し、ニューアムステルダムと名付け、60グルデンという金額で原住民のインディアンから強引に買い取ってしまったそうです。このことが「史上最大のバーゲンセール」と言われている、と青年は説明していました。

この「グルデン」とは、オランダの貨幣単位で、現在はユーロに移行しているのですが、60グルデンが今のお金(作品が書かれた1986年頃と思われます)にするといくらになるか、というと、「50ドル」と青年は述べています。こりゃあ安い!国連本部やブロードウェーやウォールストリートがあるニューヨークの中心、あのマンハッタンが50ドルとは!今の為替レートなら5000円札一枚で1000円以上おつりが来る値段で買ったとなれば、これはたしかに「史上最大のバーゲンセール」と言えるでしょう。それから40年後にイギリス人が来て、ぬーアムステルダムからニューヨークに変わったそうですが、こんな大安売り、二度とお目にはかかれないことでしょう。

しかし、です。このマンハッタン、もっと安い値段で買っていたという事実があるのです。買ったのはオランダ人でなく、日本人の私。その値段は・・・なんと100円!うわっ、安い。だけどそれはマンハッタン島という不動産ではなく、菓子パンの話。ねじれたドーナツにチョコレートがかかっていて、食べればサクサク。甘さたっぷりのパンでした。そしてなんといってもその特徴はその袋。星条旗と摩天楼(エンパイアステートビル?)が描かれていました。高校の売店にあったのですが、すぐに売り切れるので、競い合って買っていました。そのパンの名前が「マンハッタン」だったというわけです。ご存じの方もおられるのではないでしょうか。調べてみると、リョーユーパンが昭和49年に発売を始め、今なお人気の超ロングヒット商品なのだそうです。マンハッタンで見つけた商品を参考にしたから「マンハッタン」と名付けたとか。

なお、この「マンハッタン」に対抗して、「バターフランス」というパンもありました。これは、今店頭にあるラスクっぽいやつとは違い、細長いフランスパンに、バタークリームがたっぷり入っているもので、噛みごたえとボリュームがあり、「マンハッタン」と人気を二分し、お昼の高校売店における「スイーツ米仏合戦」、それはそれはすさまじいものでした。

そんなことを懐かしく思い出していた1129日のこと。日本経済新聞に「甘党男子、甘?い生活」という記事が載っていました。甘い物が好きな男性が増えており、酒を飲んだ後はシメにアイスを食べたり、大手コンビニが男性向けスイーツを売り出したところ、売り上げが大幅に伸びたりしているのだそうです。また、日本能率協会総合研究所の調査によると、40代男性で甘い物が「非常に好き」と回答した人の割合は2010年で35%7年間で倍増しているのだそうです。

40代と言えば、介護保険料を払っている世代。このままいくと、近い未来の老健施設では、アイスやプリンやシュークリームがテーブルに乗り、そして忘れちゃいけない「マンハッタン」と「バターフランス」が食卓上でバトル甘味のバトルを繰り広げるようになるんだろうか?バーゲンの季節に、そんな甘い想像をしてしまいました。

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