ターミナルケア学びました(看護介護部会:その6)
【エビデンスではない難しさ:ひとのきもち】
続いて林先生は「エビデンス(根拠)ではない難しさ:ひとの気持ち」というスライドを示して話し始めました。緩和ケアにおける患者や家族の「手を尽くして欲しい」という気持ちにどう応えていくか、ということに関する話でした。「同じ説明をして、同じ治療をしても、大病院だったら納得してもらえるのに、小さい病院だと納得してもらえない、ということはよくあります。そういうことがないように、話し合いの中で研究結果を示すことが大事です」、また「家族だけでなく、『手を尽くせたか?これでいいのだろうか?まだできたんじゃないのか?』などという医師や看護師、介護士の気持ちも非常に大事です。不全感を抱えたまま皆さんが仕事をするのはストレスになります。『これで良かったんだ』というプロセスをとっていくこと、そしてそのための話し合いを定期的に持つことが大事です。私たちもミーティングを定期的に設けています」という説明に、うなずく受講生の姿も多数見受けられました。
また、「高齢者を見捨てる無言の圧力があります」と林先生。これは胃ろうや人工呼吸器により活動的な生活を送っている人たちがいる一方で、「胃ろうはしない方がいいのではないか?」、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人に人工呼吸器をつけるのは良くないのではないか?」などといった議論が行われている事から、「実際胃ろうや人工呼吸器をして治療を受けているのに、実際は『それをするな!』という無言の圧力を感じる患者や家族もいるのも事実」とのこと。
これに対して林先生は、「ALSで人工呼吸器つけながら車いすに乗って会議に出たり積極的に活動している人を私は知っています。そういう人たちは『ALSの人に人工呼吸器をつけて無理な延命をするのは非人道的だ』という声には賛成し辛いわけです。声は出せなくても、ちゃんとまばたきをして意思疎通して人たちの存在を私たちは忘れてはいけません。『これこれこうこうだから呼吸器をつけてはだめだ』と画一的に考えるのではなく、その人と話し合って、その人の事を総合的に考えることが大事です」と、「個別性」が重要であることを力説しました。
さらに現状として、治療の差し控えや中止は一概に許されるものとも言い切れない法律的なあいまいさ(日本ではまだ十分整っていないとのこと)があることや、「死を避けたい」という文化があること等についても説明がありました。
ただし、日本ではまだ制度が十分整っていないながらも、現在専門の相談員を育成する動きがあることを紹介し、「皆さんの現場の悩みも、なくなることは無いと思いますが、悩みが減るように話し合える場が増えてくると思います」と今後の展望について見解を示しました。