今日から葉月
今日から八月、「葉月」です。暑い日が続く一方で、節電もしなくてはいけない今年の夏。葉っぱの緑が例年以上に有り難く感じる今日この頃です。そんな葉月の一日、「葉桜の季節に君を想うということ」という本を紹介します。著者は歌野晶午(うたのしょうご)さん。文庫本第1刷が2007年5月10日に文春文庫から出され、2008年12月15日に出た第16刷を読みました。ですから、読んだ方も結構おられるのではないかと思います。
主人公は成瀬将虎(なるせまさとら)。探偵事務所に2年間だけ勤めた経験があり、現在は「何でもやってやろう屋」というのをやっています。スポーツジムで鍛え上げた身体で事件を解決していきます。相棒の芹沢清は、都立青山高校に通う現役高校生。成瀬とはつうかあの仲です。ヒロインは麻宮さくらという可憐な、しかしなんだかわけありな女性が登場します。そのほか色々な人達が登場しますが、各々の関係は終盤まで理解困難な仕掛けになっています。
ストーリーはというと、探偵事務所にいたころの主人公が、ある男性が浴室で腹を割かれて死んでいた事件の真相をあばいていく場面と、その後の主人公が、高額商品売買を巡るトラブルにまつわる事件究明に奔走する場面とが並行して展開されていきます。偽装自殺、偽装結婚、保険金詐欺といろいろ出てきますが、それだけではさほど目新しいものではありません。しかし、どんどんページを読み進めていくうち、「あれっ?」と思わざるを得ない気持ちになってしまいます。それはどういうことなのか?というのは、残念ながら言えません。なぜならば、それこそがこの作品に仕掛けられた最大のトリックだからです。敢えて言うとするならば、この作品をドラマ化や映画化しようとするならば、極めて困難だろう、ということです。そして、「あれっ?」はやがて「まさか、ひょっとして!?」に変わり、最後は「あーっ!!やっぱりそういうことだったのか!!」と、たいていの人が作者の術中に陥ってしまっていたことを悟ります。そして、この作品がなぜ「葉桜の季節に・・・」となっているのかわかり、感動することと思います。
老健に勤める者として、この作品を読んだ意義は実に大なるものがあります。他の職員にも勧めて、「よかったー」と言われました。第57回日本推理作家協会賞、そして第4回本格ミステリー大賞受賞の作品です。歌野晶午さんは、マルチメディアが当たり前な現代において、活字の持つ魅力をよくよく知っていて、そして活字を自由自在に使いこなす作家だと思います。葉桜盛んなこの月に、読んでみられてはいかがでしょうか。