絆強めるこの一冊

2011年8月18日|

 今ほど日本が「絆」の大切さを噛みしめている時はないと思います。実は、当協会が今年3月に研究大会を開催するにあたり、そのサブテーマを「人と人との絆を結ぶ」と決定しました。昨年11月のことです。それから4か月後の大災害など、予想だにできなかったその時の話し合いで、いくつかの案の中から選んだわけですが、東日本大震災の後、「絆」の大切さが世界レベルで認識されるようになってきました。広辞苑には、「(1)馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。(2)断つにしのびない恩愛。離れがたい情実。ほだし。係累。繋縛」とあります。今使われているのは(2)の意味合いですが、元の意味は(1)ですから、「絆を深める」ではなく、「絆を強める」という言い方が正しいのだそうです。

さて、この「絆」の大切さがひしひしと伝わる一冊を紹介します。『風が強く吹いている』(新潮社)です。著者は”三浦しをん”さん。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞されています(これも名作です)。

ストーリーは、駅伝とは無縁の大学に通う学生達が、たった10名で箱根駅伝を目指すというもの。同じおんぼろアパートに住む彼らのほとんどが初心者。本戦に出場するためには厳しい予選会で上位に入らなくてはなりませんが、それだけでも絶対に無理!実際問題としてあり得ない!!と読みながら思うのですが、しかし、彼らは真剣に「走る」ということに取り組むのです。決して仲良し倶楽部ではない。関係がぎくしゃくしたり、激しい衝突もあったりもします。しかし、そのたびに彼らは絆を強めていくのです。たった一本のタスキに思いを込めて。

詳細は割愛しますが、これでもか!というくらいの直球ど真ん中の青春物語です。各登場人物が個性的で、その一人一人が生き生きと表現されています。ただ単に「走る」という行為なのに、完膚無きまでに感動させられてしまいます。胸にダイレクトにずずーんと響きます。スカーッと爽快な気持ちになります。そして、人と人との絆の大切さを改めて知らされるのです。

読んで損はしません。今年これまでに読んだ作品の中で最高の一冊としてお勧めします(あくまでの個人の感想ですが)。ぜひご一読されてみてはいかがでしょうか。

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