一瞬の風になった!

2016年9月9日|

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 世界を熱狂させたリオデジャネイロオリンピックも8月21日で閉会しました。それにしても日本選手の活躍は目を見張るばかりで、「一般紙がスポーツ紙になった!」と言われるほど、メダル獲得のニュースが報じられました。

 その中でも陸上男子400メートルリレーの銀メダルは世界中を「あっ!」と驚かせました。100メートル9秒台を揃える他国チームに対し、全員が10秒台という日本チーム。走力だけで比較すれば力の差は歴然かもしれませんが、日本チームには世界一のバトン技術がありました。お互いの力を認め合い、堅い信頼関係のもと練習を重ねてきた成果が3760のアジア新記録、そしてボルト擁するジャマイカに次ぐ堂々の世界二位という形となって表れたのだと思います。

 日本のバトン技術で用いられた「アンダーハンドパス」は、実演を交えた解説などで何度も報じられ、周知のものとなりました。ひょっとすると2020年の東京オリンピックの頃には他の国々もこのアンダーハンドパスを取り入れるかもしれない、そうすると他の国ももっと速くなるかも?と考えたりしますが、このアンダーハンドパス、そんなに簡単ではないようです。それがわかるのが佐藤多佳子さんのベストセラー「一瞬の風になれ」。今から10年前の20061024日に第一刷が講談社から出されています。

 舞台は神奈川県春野台高校陸上部。主人公の神谷新二が友人でライバルの一ノ瀬連達と共に400メートルリレー、いわゆる「4継」で地区大会から県大会、南関東大会、そしてインターハイを目指していくストーリーです。綺麗にバトンがつながり、最高の走りをするためには互いの信頼無くしては不可能で、なおかつ第一走者からアンカーまで、各自が与えられた役割をしっかり果たさなくてはなりません。そこで同校が用いるのがアンダーハンドパス。この作品ではその特徴、オーバーハンドパスとの違い、修得の難しさ、練習方法、そして実戦での様子などがかなり詳しく書かれています。これを読むと今回の日本チームの銀メダル獲得までにはどれだけ大変な練習を積んできたか、そしてそれを支える絶対的な信頼関係があったかがわかるのではないかと思います。

 もちろんこの作品は陸上の専門書ではありません。高校生らしい葛藤や焦燥、そして恋愛もある青春ストーリーで、そんな中で新二は厳しい練習に自ら取り組み確実に速くなっていきます。タイトルにもある「一瞬」を捉える描写が素晴らしく、特に後半に出てくるある大会における4継決勝のそれは非常にスリリングでエキサイティングです。

 「一瞬の風になれ」は「1(”一について”)」、「2(”ようい”)」、「3(”ドン”)」の3冊構成です。そのためかなりのページ数なのですが、一旦読み出すともう止まらない!まさしく一瞬にして読んでしまいそうなほど引き込まれてしまいそうな名作です。今回の日本チームの歴史的快挙により、この作品が再び脚光を浴びるのではないかと思うのでは私だけではないはず。4年後の東京五輪を見据え、読んでみられてはいかがでしょうか。

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