「高齢者施設での看取り」学びました(看・介部会:その13)

2015年6月3日|

 「かあさんの家」では看取りを行った後のエンゼルケアも、家族と一緒に行うそうです。市原美帆理事長は「ご家族は亡くなった事に動転されますが、一緒にエンゼルケアをしながら『綺麗だね』などとやっていると少しずつ落ち着いていき、表情も段々変わっていかれます。12時間かけてていねいに化粧をしたりマッサージしたりしていくと、ご家族の顔が落ち着いていかれるのがわかります」とのことでした。

 そして「人が死ぬって、曖昧ですね。僕たちは人が死ぬときはばっとわかると思っていました」と、ある入居者のエンゼルケアをしている時にその息子さんが言われた言葉を紹介しました。「息をしなくなって、家族が声をかけたらまた息をし始めて、そうやりながら『え?もう死んだ?息してない?』、『いやまだ生きてる、まだあったかいよ』という感じで看取ったわけです。そういう意味で家族にとって看取りはそれまでのプロセスの全てを含んでいます」と家族が看取り、そしてエンゼルケアを行うことの意義を説明すると、参加者は「自分たちで看取った」という気持ちを家族が共有することの重要性を再確認していました。

 次に市原理事長は、空に月が浮かんだ月に虹がかかっている一枚の写真をスライドに示しながら、ある女性の入居者を家族で看取り、葬儀社が来て全員でお見送りに出た真夜中の出来事を紹介しました。「ハワイでは月に虹がかかっていると、『感謝』を表すそうです。この虹がかかった月を見上げながら、『ああ、お母さんが感謝してくれたんだ』と家族は思ったそうです。この写真は大きく引き伸ばして今でもお仏壇の前に飾ってあります。ということは、家族にとってはここも看取りなんですね。グリーフケアが遺族に必要だと言われます。しかし『かあさんの家』では悲しいけれども悲嘆はあまりありません」。

 さらに「私たち家族は今幸せな気持ちでいます。」というスライドを示してこのように続けました。

 「『私たち家族は今幸せな気持ちでいます』というのは葬儀の際、家族が会葬者への御礼で言われた言葉です。結婚式ではなく葬式で『幸せな気持ち』というのはなかなか言えないですよね。でもご家族は『思い出す時は穏やかに過ごしていた姿しか思い浮かばない。これでよかったんだと思います』とおっしゃいました。そういう意味では最後の数時間は家族の記憶にずっと残ります。ですから私たち医療や介護の関係者にどのようにかかわってもらったかが家族にずっと残りますし、それが悲嘆のケアにつながります。病院で『外に出て下さい』と言われてエンゼルケアが始まりますよね。ある家族はお母さんのエンゼルケアを病室の外で待っている時に、中から看護師がしゃべりながらやっているのが聞こえてきたそうです。それは30年前の看取りのなのですが、娘さんはいまだに心に傷を持っていました。『お母さんのエンゼルケアをしているのに、世間話をしながらやっている看護師が許せない』とのことです。そういう気持ち、家族の心に刺さったとげは何十年経っても抜けません。ですから本当に最後のときに家族への言葉かけなどへの配慮が必要だと思います」。

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 市原理事長の優しい口調の中にも強いメッセージを込めたこの言葉は、静まりかえった会場で、参加者の胸の奥まで響く打つものでした。

(つづく)

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