研修会開きました(栄養給食部会、その3)

2013年7月31日|

【風味:実際に味わう感覚】

 実はあまり「風味」という言葉が好きではありませんが、他に言葉がありません。日常の味覚の体験は、視覚・嗅覚・温覚・圧覚・触覚などの感覚と記憶などで拡張された知覚で、心理学的な感覚としての味は「風味(ふうみ、flavour)」と、呼ばれることが多いです。

 基本味以外の「辛味物質」「アルコール」「炭酸飲料」などの化学的刺激や、「熱さ」「冷たさ」などの温度、そして「舌触り(つぶつぶ感、柔らかさ、硬さ、滑らかさ)」などの物理的刺激は、味蕾を介することなく刺激として大脳に送られ、5種類の基本味と合わされて総合的な味覚を形成していると考えられています。

 具体的に言うと、味覚(基本味)はそれ単独では存在しえず、大なり小なり、嗅覚あるいは視覚や記憶などに影響を受けます。例えば、レモンの酸味とライムの酸味の成分は同一であり、基本味的には違いがないのですが、風味は視覚、嗅覚あるいは記憶によって両者の違いが強調されて認識されます。

 つまり、「甘い」料理を作ったからといって、認知症の人が「甘い」と感じているかどうかは別問題かもしれなません。                                                                                                                 

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【高齢者の視覚問題】

 100歳以上は100パーセント、80歳以上でも50パーセント以上の方は視覚障害があります。治療可能な障害は約半分(50.8パーセント)。つまり、若い人通りの視覚を持っている人は少ないと言えます。高齢者の眼疾患には老人性白内障、糖尿病性網膜症、緑内障、加齢黄斑変性症、網膜剥離、眼底出血などたくさんあり、どれも視覚障害を来しますが、問題なのは「見えない」ことではなく、「情報の減少」です。”建物がしっかり見える”という情報、”新聞が読める”という情報、”段差が見える”といった情報です。情報が減少すると、例えば段差が見えずに転倒や骨折を起こし、それが引きがねとなって社会的孤立や、うつ、認知症を引き起こすという問題があります。

 もちろん、食べ物が見えるという情報の減少にもつながります。たとえば白内障の人が食べ物を見るとなると白っぽくなります。ということは、食べるときに目で確かめる、目で喜ぶということが阻害されているということを考えるべきです。

 

【高齢者の嗅覚機能低下】

 つぎに臭いについてです。一般的に加齢により嗅覚機能は低下すると言われています。パーキンソン病では、まず延髄、嗅球などからレビ?小体の形成が認められ、パーキンソン病の初期症状としての嗅覚障害に留意が必要です。また、アルツハイマー病やレビー体病でも、レビー体の関与による嗅覚異常が生じます。

 

【高齢者における味覚障害の特徴】

 生理的な加齢現象により、味覚機能は衰え、甘味・塩味・酸味・苦味の基本4味に対する味覚閾値は、個人差はあるものの年齢とともに増大すると言われています。つまり、かなり甘い、かなりしょっぱい味にしないと、味として認識されないと言われています。そうすると若い人と比べ味が薄いと感じ、また基本4味が混ざり合った複雑で微妙な味覚がわからなくなります。

 しかし、その程度には個人差が認められ、(1)全身疾患、治療のための薬剤投与、(2)食生活による亜鉛摂取量の低下、(3)唾液分泌量の低下・・・が複雑に影響していると考えられています。年取ったから味覚障害、ではなく、その前にこのようなことを考えましょう。

 

【味覚障害の種類】

 味覚障害は「ただ味覚が鈍くなった」だけではなく。次のように色々なものがあります。

(1)味覚減退:味を薄く感じる

(2)味覚脱失・無味症:味が全くわからない

(3)自発性異常味覚:実際は何もないのに、口の中で特定の味がする

(4)異味症・錯味症:飲食物が本来の味とは違う味に感じる

(5)解離性味覚障害:特定の味質だけがわかりにくい

(6)部分的味覚障害:舌や口腔内の特定の部位が味を感じない                      

 

【味覚障害を起こす疾患〔1〕:低亜鉛血症が最多】

 疾患とまではいわないまでも、若年者を含めると、味覚障害をきたしやすい病態は、低亜鉛血症であり、全体の50パーセント近くで、その中でも、薬剤による低亜鉛血症が多いとされています。その他、亜鉛摂取不足、病気による亜鉛摂取障害、亜鉛排出過多などが含まれます。

 亜鉛(Zn)は骨やすべての細胞内に分布していて、DNAや蛋白質の合成、糖質の代謝などの生理作用があり、特に新陳代謝が活発な味蕾(みらい)の形成に必要で、不足すると味覚異常をきたしやすくなります。高齢者は食事の量が少ないということで、まず亜鉛の量が少なくなっているのではないかということが指摘されています。

 亜鉛は魚介、肉、海藻、野菜、豆類などに含まれ、特にカキはよい供給源です。

(つづく)

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