熊!?
県北の山村で子供が猿に殺された。それを片目の猿の仕業とするその父親五平と村人達。しかし、長年の経験で猿が人を殺さないと知っている老猟師の伊助。「山ン人(=猿)は撃てない」と退治の依頼を断る。子供を襲ったとされる片目の老猿は、かつて山火事の際、伊助にしがみついて命を救われた子猿。子供のいない伊助夫婦は実の子のような愛着を覚える。駐留軍も駆り出して山狩りが行われる事を知り、猿を自らの手で「山に返す」事を決意する伊助・・・。
山に生きる人と動物の厳しさ、そして愛情を織り込んだ名作です。
その谷さんも、さぞかし驚かれているのではないでしょうか?九州には生息していないと思われていたクマ。そう、「熊」です。それが宮崎にいるやもしれぬ!?というのです。10月20日の宮崎日々新聞によると、高千穂町と大分県との境の祖母山で、クマらしき動物が目撃されたというのです。同紙は22日にも専門家のコメントが載せられており、立ち上がる動作や、うなり声などから、クマ類であると推定されるとのことでした。これは穏やかではありません。豊かな山の経験と知識を持つ老猟師伊助でも、「九州にクマがいるはずはない!」と憤っていることでしょう。
いずれにせよ、今後の確認作業はもちろん、何よりも注意が必要です。
ところで、この「老猿」という本には、書き下ろしの「黒潮」という作品も収められています。
舞台は日向灘に面した県北の漁師村。腕の良い漁師だった父を戦争で亡くした勉が、幼なじみの綾子に恋心をいだきながら漁に励む。網元の息子、健太郎に綾子との仲を邪魔されそうになりながらもくじけない。嵐の晩、鎖が切れて流された浮き灯台。その明かりが「港はこっちよ」と誘い示すその先は、そびえ立つ馬ケ背の岩壁。そうとも知らずに進む、浜の村人を乗せた船。危ない!あの明かりを消せ!みんなを救え!命がけで荒れ狂う海に出る勉と、帰還兵で鉄砲の名手、岩佐。あーっ、この結末やいかに・・・!?
これまた素晴らしい作品!もうたまらんです。この本はまず「老猿」があって、そして「黒潮」が続くのですが、この組み合わせ、そしてこの順番が、二つの作品の魅力をそれぞれに高め合い、一冊の本として見事に完成していると言えます。宮崎県はこんな素晴らしい作家を世に送り、こんな素晴らしい作品がある。一県民として、一読者として、嬉しく、そして誇らしくなるような一冊です。
だからと言って、間違っても「宮崎熊物語」などといったノンフィクションが書かれるような事があっては困ります。心配です。今後、より正確な情報収集と、対策が急がれます。