Masaさん(菊地雅洋氏)第2弾講演会開きました(事務長会&看護・介護部会:その11)

2015年10月22日|

 このように利用者ひとりひとりの人格や生活スタイルを慮った対応の大切さ、そしてそのためにあえて不便な方法に取り組むことが将来的に良い結果をもたらすことを説いた特別養護老人ホーム緑風園総合施設長の菊地雅洋先生。その上で「一番だめなのは、一人の利用者に対して良いケアができるのに『それはその人にはできるかもしれないけれども、みんなにはできないでしょ』と言ってそれさえもしないこと」と切り出し、「『誰かにやれるけれど、全員にできないからやめよう』というのはケアの品質を上げません。一人にできてやっと二人目ができるわけです。それは不平等ではありません」と言いながら「介護サービスの質向上を阻害する『悪平等』意識」というスライドを示しました。そして「『今は一人にしかできないけれど、いずれはみんなにできるためのステップだから』と考えて下さい。『機会均等』イコール『平等』ではありません。『その人に今必要なケアをする、あの人には必要ないから今はしなくていい』というのは平等です。そして今必要じゃなかった人が将来必要になったときに、この人にしていたことと同じことができるはずなのにしない、そこで初めて不平等になるわけですから、『機会均等を求めないで下さい』」と、「平等」の名の下に機会均等を求めることはサービスの質を向上するものではないと強調しました。

 その一例として菊地先生は、釣りが好きな利用者1人だけのために「釣りを楽しむ『大物を釣る』」という行事を計画し、実施している取り組みを紹介しました。その計画書には実施日時や場所、目的に加え、携帯する物として携帯電話や排泄用具一式、カメラ、防寒衣類、飲み物、釣り道具一式が明記され、さらに当日の行動スケジュールも盛り込まれ、それらに基づいて釣り行事を集中的に行ったそうです。対象となった男性利用者は認知症で動かず、しゃべらず、無気力になっていたものの、かつては釣りが好きで、毎日漁港に行っては釣れた魚を刺身にして家族にふるまっておられたとのこと。それを聞いた職員が提案し、このような行事を繰り返し実施したわけですが、その結果みるみるうちに元気を取り戻し、はつらつと歩き、表情豊かにコミュニケーションを交わすようになって奥様も涙を流し、大変喜ばれているとのことでした。

 所要時間は3時間余り。たった一人のため釣り行事には、職員1人が施設内業務から外れて対応。入居者100人の緑風園ですが、「他の職員から不満は出ません。なぜなら職員はこの意味を知っているからです」と菊地先生はきっぱり。「認知症の人はきっかけで変わります。この方にとっては釣りが大切なことでした。必要な時期に必要な事をすることが我々に求められていることだと思います」と話した菊地先生、「釣りに連れて行くだけですから専門的なことはいりません。それを根気よく続けてその時のやる気や表情を見つける、それに気づけるかどうかです、介護にというのは一番近くで気づくことができる専門家ですから。だから我々はむずかしいことを考える前に、介護の現場で『それって普通?』を合い言葉にして下さい。先輩や上司に対しても、部下に対しても両方向から『それって普通?』と明日から職員で言い合って下さい」と続け、ひとつひとつ『ふつうじゃないこと』をつぶしていく取り組みを習慣化することで「それだけで変わるものがあります」と呼びかけました。

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←「その10」に戻る)             (つづく

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