Masaさん(菊地雅洋氏)第2弾講演会開きました(事務長会&看護・介護部会:その7)

2015年10月16日|

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 このように「介護現場の割れ窓理論」を説明し、介護現場における感覚麻痺が生じ、それがさらに虐待につながらないためにも丁寧な言葉遣いが重要である事を説いた菊地先生ですが、これに対して異を唱える人がいるとし、次のように話し始めました。

「しかしそういうと『堅苦しい』と言われます。『我々は生活支援。利用者はそんな堅苦しい言葉を望んでいませんよ』と言う職員もうちの施設にはいたわけです。それでどういう接し方をしているのかと聞きに行ったら、普段丁寧語を使い慣れていなくて、誰かの目を気にしてしゃべろうとするからぎこちなくなるわけです。そうすると利用者さんも気を使ってくれて『そんなぎこちなくて、会話になっていないようなら今まで通りでいいから普通に話して』と利用者さんが気を使ってくれているだけなのです。どこの世界が気を使う方が気を使われる方に金を払うのか?という話ですよ」

ここまで述べると菊地先生は一呼吸置き、会場を見渡しながらきっぱりと断じました。

 「事実として言いますが、僕はここ30年以上、利用者さんに丁寧語以外でお話ししたことはありません。見学に来られた方などに、『僕が利用者さんに丁寧語以外で会話をしていたら指摘をして下さい』と言っています。『その場合はすぐ辞めますから』と言っています。ここでも宣言しておきます。辞めます。丁寧語以外の言葉は使いませんから」。

 その気骨に圧倒されたかのように静まる受講者に菊地先生はさらに「だからと言って僕が施設の中で『堅苦しくてあの人とは話しづらい』と言われていることはありません。事実として言えば、80歳以上の女性の人気ナンバーワンは僕です。日本語はボキャブラリーが豊富ですから、丁寧語を使っても別に堅苦しくはなりません。使い慣れていないだけの話です。お客様に使える言葉を普段使えるように慣れて下さい」と、コミュニケーション技術の問題として丁寧語を自らの言葉とし、使い慣れていくことが大事であるとポイントを示しました。

 また特にアルツハイマー型認知症の方の場合、「感情は最期まで残りますが、情報がたまる海馬の血流障害が起こっていて、特にエピソード記憶が障害されます。皆さんとコミュニケーションを交わし良い関係を作って、その感情は残るのですが、皆さんの顔を毎朝忘れてしまいます。名前も覚えられません。そういう障害がありますから、普段どんなに良い関係を作っていても、朝最初に会った瞬間は『知らない人』なのです。皆さんが朝出勤しようと町を歩いていて、向こうから知らない人がスピード感を持って近づいて来て、ニコッと笑って『おはよう』などと親しげにされたら嬉しいですか。女性だったら知らない男性にそのようにされたら嬉しいどころか怖くて気持ち悪いのではないでしょうか。アルツハイマー型認知症で皆さんの顔を毎朝忘れる方と施設の中で会って元気に『〇〇さんおはよう』となれなれしく近づいていくと、みんなびくびくしています。『なんだこいつは。なんで俺の名前を知っているんだ。気持ち悪いな』とおびえさせているわけです。だから認知症の人には『ゆっくり、静かに近づいて、丁寧に』と言っています」と特に注意を喚起しました。

 また今後の傾向として「これからは団塊の世代の方々がたくさん入所して来ます。この方々はもっと長幼の序(ちょうようのじょ:年長者と年少者の間の秩序)とか上下関係に厳しい人です。ですからお客様意識をもってきちっと適切な言葉で接していかないと、その人達に不快な思いや悲しい思いをさせてしまいます」と、これまで以上に顧客満足度を意識した丁寧な言葉遣いが重要になってくることを示唆しました。

 このように言葉遣いの大切さについて説明してきた菊地先生は、会場を埋め尽くした400人の受講者を見渡しながら「皆さんに贈る言葉です」と前置きし、次のようなアメリカのことわざをスライドに示し、読み上げました。

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「言葉は運命になる」

◎言葉に気をつけなさい、それはいつか思考になるから

◎思考に気をつけなさい、それはいつか行動になるから

◎行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから

◎習慣に気をつけなさい、それはいつか人格になるから

◎人格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから

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 「皆さんの汚い言葉遣いを直さないことによって、皆さん自身が将来傷つけられるのであれば、それは自己責任だからいいですよ。だけれども、皆さん方が今この時代に介護のスタンダードを変えないで、『無礼な馴れ馴れしい言葉が親しみやすい』という都市伝説をいつまでも残して介護を続けていくことによって、将来皆さんの愛する子供や孫が傷ついたらどうしますか。どうぞ皆さん100年後の介護のために、今この時代、我々の時代に介護のスタンダードを変えていって下さい」という菊地先生の強い呼びかけに、受講者は神妙な面持ちで聞き入っていました。

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←「その6」に戻る)             (つづく

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