第13回研究大会開きました(その7)
このように、成年後見人や配偶者は監督義務者に該当しないとした上で、「監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合は、準監督義務者として責任を負います」として、その判断要素として(1)その者自身の生活状況や心身の状況、(2)精神障害者との親族関係の有無・濃淡、(3)同居の有無その他の日常的な接触の程度、(4)精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、(5)精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、(6)これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情・・・の7つをあげ、これに照らしても今回の裁判では準監督義務者に該当しないとして責任を否定。「これは初めての現実的な判決で、今後の重要な影響を与えます」と述べるとともに、「一般に期待される程度の介護をしている場合は、責任を負うことはないでしょう」と言い添えました。
これに対し、介護現場への影響については「この判決は介護施設や職業的な介護者には該当しません。介護施設での事故には今回の判決は残念ながら使われないと言われています」と介護施設等に今回の判決の射程が及ばないと指摘しました。そして利用者が施設を抜け出して同じように鉄道事故を起こした場合、「家族から訴えられる」、「鉄道事業者から訴えられる」の2つが考えられ、前者、すなわち対利用者、対家族については民法の規定ではなく利用契約でどのような責任負担を定めているかで決まってくるとのこと。なお「サービス利用中に事故が起きた場合、不可抗力による場合を除き損害賠償します」と記していた場合、法律用語における「不可抗力」は大地震などといった天変地異によるものなど、ハードルが高く、「基本的にはほとんど全てにおいて責任を負う」という解釈とのことでした。
そして後者、つまり鉄道事業者など第三者との関係では「監督義務があるか」ということが重視され、今回の判決はあくまでも家族を念頭においたものであり、そのまま介護施設に適用されるわけではないとのこと。専門知識があり、人員が確保されており、対価をもらって介護にあたっていることなどから、家族の場合とは同じにならない点を強調しました。ただし介護施設が第三者との間でどういう責任を負うか、という裁判、判決はまだないため「不透明」としつつ、「最高裁判決の補足意見で『今後施設の責任は、今までは“家族が監獄義務者で、介護施設はそれを代行する監督補助者”と位置づけられていたが、今後は“施設が監督義務者だ”という議論が出てくるのではないか』とありました。そのため今後は監督義務者に施設運営者が入ってくるかどうか、という議論になってくると思います」とし、「今後このような事例が増え、裁判例が集積されて判断基準が作られていくのではないかと思います」との見解を示すと、受講者は身の引き締まる思いで耳を傾けていました。
事例を踏まえ、関連する法律をわかりやすくひもときながら詳しく話して下さった大変有意義な講演でした。講師の畑井 研吾先生に、会場からは感謝の拍手がおくられました。
(つづく)