イラカとイラハイ

2013年5月3日|

 子供時代の今頃、「イーラーカーのなーみぃーとぉー くーもーのぉなーみぃー」と歌っていたのはご存知「こいのぼり」。しかし当時は「イラカ」とは何なのか?知らずに歌っていたのでした。後になってそれは「甍(いらか)」、つまり「かわら屋根」の事だったと知ってなるほどと思い知らされました。あれは「波」に見えますね。だからトタン屋根や、かやぶき屋根では「波」にはならないわけです。「いらか」・・・今の子供はわかるかなあ、っていうか、この曲、歌い継がれているのでしょうか。唱歌が音楽の教科書から消えたのは寂しいことです。

 こいのぼりとは全然関係ないのですが、「イラカ」と似た言葉で「イラハイ」というのがあるのをご存知でしょうか?これまたなんじゃろかい?と首をひねるような単語です。

 これは「イラハイ」という名の小説なのです(新潮社)。著者は佐藤哲也さん。「イラハイ」とは国の名前で、初代国王の名前でもあります。登場する人物は、ウーサン、シュリ、イーサン、国王フルシミ八世、フルニエ(伝説の屋根穴職人)、クロシミ王子(ヒタタミ党指導者)・・・など、不思議な名前が続々です。

 この本を一言で表すと、「分別と愚かさに関する作品」、あるいは「始まりがあって、終わりがある、という作品」でしょうか。これじゃあわからないですよねぇ。

イラハイという国に住む屋根穴職人ウーサンが、シュリと結婚するのを知ったフルシミ八世が、幸せを得るには困難を克服しなければならない、と難癖をつけてシュリを奪い去る。シュリを取り戻したい気持ちに反して、様々な困難に遭遇するウーサン。穴から落ちた先の地底で、イラハイの国土を崩し去るという「彼岸の支え」に繋がれる。フルニエとイラハイ初代国王との言い合いが高じて、彼岸の支えが折れ、イラハイは水中に。一方城の塔に幽閉されたシュリ。そのシュリとウーサンは果たして再会できるのでしょうか?そしてハッピーな結末になるのでしょうか・・・?

 どうです?おわかりいただけましたか?え?わからない?そうでしょう。タイトルが不思議なら、内容も不思議です。禅問答のようなやりとりが色んな場面で繰り広げられ、首をかしげられるだけかしげて読みました。個人的には「異色中の異色」の作品だという感想を持ちました。だけどこれは現在の社会に対する、著者の深い洞察があるようにも思いました。名作です。

5回日本ファンタジー・ノベル大賞受賞作品(1993年)のこの「イラハイ」。この不思議な「単語」と「端午」の節句にかこつけて、そして「イラカ」と「イラハイ」にかこつけて、鯉のぼりが大空泳ぐその薫風に吹かれながら読んでみられてはいかがでしょうか?もちろん、「イラカ」の上で読むのは、転落して大けがをする恐れがあり大変危険ですので絶対にやらないで下さい。

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