アイデンティティ:僕が僕であるために

2015年6月15日|

 512日はアメリカの心理学者で精神分析家のエリク・ホーンブルガー・エリクソン(Erik Homburger Erikson)の誕生日です。今から113年前の1902年のこの日に生まれました。

 エリクソンは「アイデンティティ」の概念を唱えたことで知られています。アイデンティティとは「自己同一性」とも言われ、ウィキペディアには「『これこそが本当の自分だ』といった実感」と記されています。尾崎豊の言葉を借りれば「『僕が僕であるために』必要なもの」ということではないでしょうか。そして尾崎はそのために、「正しいものは何なのか」がわかるまで、勝ち続けようとしたのではないのでしょうか。

 またエリクソンは「ライフ・サイクル論」を説いた事でも知られており、その中で「アイデンティティを形成すること」が青年期の発達課題とされています。そして「自分とは何か?」という問いに対する答を発見し、自分の存在の証明を獲得し、安定した自己を形成することとで社会の一員となることができると言われています。尾崎豊は「存在」の中で「小さくかがめて守らなければ、自分の存在すら見失う」と歌っていましたが、尾崎のみならず、青年期に自分の存在の証しを得ることは簡単なことではなく、その過程で様々な葛藤と向き合い、あがき続けた経験のある人は少なくないのではないかと思います。

 そして青年期のみならず、アイデンティティは老年期においても重要なのは言うまでもありません。老年期の発達課題は「『自我の統合性の感覚』の獲得」。老年期においては自分のそれまでの人生を振り返り、それ(良いことも、そうでないことも)を受け入れることで尊厳ある生き方を守り通すことができると言われています。逆にそれができないと、自分の生き方を悔やみ、人生を悲観し、絶望して生きる意欲を失いかねないとも言われています。

 しかし、エリクソンが「ライフ・サイクル論」を説いた頃より日本の平均寿命は大幅に延びています。したがって今の時代において、老年期は後悔や絶望のみのためにのみ費やすにはあまりにも長く、「若いときにああしておけばよかった」などと悔やむ前に、今一度やり直してみたり、今までと違う生きがい作りに取り組んでみるための時間は十分あるのではないでしょうか。

 今年度の報酬改定では、高齢者の「参加」と「活動」の要素が全面に打ち出されました。その中で「リハビリテーション計画書」の策定にあたっては、「興味・関心チェックシート」が導入されることになりました。これは利用者の生活行為の諸項目について「している」、「してみたい」、「興味がある」を尋ねるものですが、その項目には「自分でトイレに行く」や「自分で食べる」などの基本的な日常生活活動だけでなく、「生涯学習・歴史」や「旅行・温泉」、さらには「居酒屋に行く」や「デート・異性との交流」、さらには「賃金を伴う仕事」など、まさに「高齢者の将来」をポジティブに捉え、やれなかったことをやり直したり、新たな価値観を求めて物事にチャレンジできるような、QOLの向上をも見据えた内容になっています。

 もちろんこれはリハビリテーションのみに限局したことではありません。利用者ひとりひとりの「『僕(私)が僕(私)であるために』何をやるべきか?何をしたいか?」を実現・達成させるために、他職種が共同してそのサポートをいく事が大事だと思います。

尾崎豊は「十七歳の地図」で「素敵な夢を忘れやしないよ」、「強く生きなきゃと思うんだ」、「どんな生き方になるにしても自分を捨てやしないよ」、「今心の地図の上で 起こる全ての出来事を照らすよ」と歌いましたが、利用者ひとりひとりが描いた「七十歳の地図」、「八十歳の地図」、「九十歳の地図」、「百歳の地図」をそれぞれの生きがいの道しるべとしながら、「自由への扉」を開き、希望に充ち満ちた人生がおくれるよう、老健職員の一人として注力したい・・・エリクソン誕生日を迎えるに当たり、そのように考えた次第です。IMG_9959-1.jpg

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