言葉はことのは

2016年4月6日|

 

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【ことのは】

言葉はことのは。

優しい言葉は

優しい心に宿り

あたたかい光と共に

相手の心に届く

あなたの言葉は

あなたの心そのもの。

旅立たせるその前に

よくあたためて

それから送り出そう

 

「広辞苑」で「ことのは(言の葉)」を引くと「(1)ことば。古今恋『思ふてふことのはのみぞ秋をへて色もかはらぬ』(2)和歌。源桐壺『やまとことのはをも』」と載っています。

 新年度になり各老健施設等でも新人職員が就職し、その方々を対象にした研修・教育が行われることと思います。その中で必ず実施されるのが、利用者に対する接遇、とりわけ「言葉遣い」ではないでしょうか。

 「利用者の親身になったケアの実践」、「利用者を自分の家族だと思って親しみやすい態度で接する」、「利用者には自分の家だと思って生活してもらう」ことなどは、いずれも利用者本位のケアを行うために大切です。しかしそのために「利用者になれなれしい態度や言葉遣いで接する」ことは、一歩間違うと高齢者に対する非常識な考えが横行し、それが施設内で「常識」と化し、さらには虐待に発展する危険性をはらんでいます。従って利用者やご家族に対する正しい言葉遣いは極めて重要だと言えます。

 昨年103日、当協会の事務長会と看護・介護研究部会が合同で開催した「masa氏 第2弾講演会」の中で、特別養護老人ホーム緑風園の菊地雅洋元総合施設長(※)が「介護現場の割れ窓理論」について説明されました。これはアメリカの犯罪学者による「割れ窓理論」をもとに、菊地総合施設長が20年以上前から提唱されている理論で、(1)割れた窓を放置しておくと、割られる窓が増え建物全体が荒廃していく、(2)介護現場の割れ窓は「言葉」である、(3)言葉の乱れが常識ではない感覚麻痺を促進させ虐待につながる、(4)言葉を正しくすることで心の乱れをある程度までは防ぐ効果もある・・・というものです。

 建物の窓が1枚割れているのを放っておくと、「ここは誰もいないのかな?割れていてもどうってことないのかな?」という印象を周囲に与え、1枚が2枚、2枚が3枚、そして建物全てのガラスが割られ、その建物はもとよりその周辺地域全体へと破壊と荒廃が拡大していくという「割れ窓理論」。私たち介護の現場における「割れ窓」にあたるのが「言葉遣い」だと菊地総合施設長は警鐘を鳴らされました。

 新しく施設に入った職員は、先輩職員の仕事ぶりや言動を見習って自分のものとしていきますが、その先輩職員の言葉遣いが「親しみやすさ」という名の下でなれなれしく、横柄な1枚の「割れ窓」だったとしたら、「そうか、このような言葉遣いと態度で接しないといけないのか」となり、割れ窓は縦横に拡散し、虐待や施設の崩壊につながりかねません。

新人を対象にした研修が行われるこの時期は、それを迎える私たち一人一人が、自らの「ことのは」という窓を見つめ直し、もし割れていたら直ちに修繕する、そのためにも大切な時期だと言えます。

私たちの言葉は、私たちの心そのもの。旅立たせるその前に、よくあたためて、それから送り出しましょう。

(※)菊地雅洋総合施設長は3月末日に緑風園を退職され、4月からは介護老人保健施設クリアコート千歳で勤務されていますまた、「北海道介護福祉道場あかい花」の代表も務められており、執筆や国内外での講演活動など、精力的にこなされています。

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