気にすることに関心を持とう

2016年7月6日|

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「人間というのは自分のことを他人(ひと)がどれだけ気にしてくれるか、ということに最大の関心がある動物である」(『生きるヒントになる明語録728』、轡田隆史監修、橋本一郎著、三笠書房)・・・これは小説家森瑤子さんの言葉です。

 利用者から呼ばれて「ちょっと待って!」という場面が少なからずあります。しかし言われた方としては「『ちょっと』っていったいどれだけ待てばいいのだろう?あの職員は私のことを気にしてくれているのだろうか?」という気持ちになるのではないでしょうか。とはいうものの、職員にとっても「どうしてもすぐに応じられない」という場合があって、利用者に対して申し訳ないと思いながらもつい「ちょっと待って!」が出てしまうジレンマに陥ってしまいがちです。グーグルで「ちょっと待って 介護」で検索したところ、なんと413千件がヒットしました。それだけこの問題は介護の現場において深刻かつ解決が困難なのではないかと思います。

 「ちょっと待って」・・・この言葉は相手の言動や思考を言葉によって封じる「スピーチロック」、つまり「言葉による拘束」として問題視する動きもありますが、この「ちょっと待って」は、介護される側だけでなく介護する側にも様々な弊害があり、この言葉の多用が常態化することで介護の現場は深刻な悪循環を来すことも指摘されています。

 利用者と職員が完全なマンツーマンではない以上、必ず誰かを待たせてしまう可能性があることは否定できません。そのような場面で大切なのは、待たせてしまう相手に対して「私のことを気にしてくれない」という気持ちを抱かせない、つまり「あなたのことをいつも気にしていますよ」という言葉や態度を示すことではではないでしょうか。と言っても簡単なことではありませんが、日頃からの地道な信頼関係の積み重ね、業務のあり方の見直しなどを繰り返していくことで、「ちょっと待って」を完全に無くすとまではいかずとも、減らしていくことにつながっていくのではないかと思います。

森瑤子さんは199376日、52際の若さで世を去りました。もしご存命であれば今年で76歳。沢山の優れた作品を世に出されただろうし、介護の現場が抱える問題に対して様々な提言をいただけたかもしれないと思うと、早すぎる死が残念でなりません。「人間というのは自分のことを他人がどれだけ気にしてくれるか、ということに最大の関心がある動物である」という森瑤子さんの残した言葉を噛みしめながら、そのための具体策を考えていきたいと考える次第です。

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