(社)宮崎県老健協会の在宅支援研究部会と支援相談員部会は、2月5日、宮崎市の宮日会館で合同で研修会を開催しました。講師は、福岡県で「デイサービスけやき通り」を開設し、施設長を務められている、葉山靖明(はやまやすあき)先生です。講演テーマは「『望まれる支援』-45歳の片マヒ経営者が語る-」。会員施設等から240人もの参加があり、会場は満席となりました。
テーマからもわかる通り、葉山先生は当時40歳だった平成18年、会議中に左脳内出血を発症、右片麻痺となりました。病院でリハビリテーションを必死に行い退院。しかし、自分が生きていくための”場所”がわからず、講師を務めていた専門学校を退職。苦悶の日々を経て平成20年、「デイサービスけやき通り」を開設。それには奥様と、3人のお子様の支えがあったそうです。「41歳で介護保険認定経験あり(退院当時、要介護2)。これは人には真似できない私の財産だ」と、障害を前向きに受け入れ、自分自身の経験から、在宅の高齢者・障害者に意味のあるリハビリを届けようと立ち上がった葉山先生。それは同時に、社会の中での自分の存在を蘇らせることでもあったそうです。
自らの体験を踏まえて話される葉山先生の講演。とてもわかりやすかったです。
「デイサービスけやき通り」の特徴は、作業療法に特化していること。自分自身の経験から、「望まれる支援」を具現化し、QOLを向上させる手法は作業療法の理論の中にあふれていると実感し、実践されているそうです。たとえば”パソコンリハ”。30名の登録者のうち、92歳を筆頭に、9名がパソコンを使いこなすのだそうです。ノートパソコン持参で通って来られる利用者も3名おられるとのことでした。
“昔とったキネヅカ支援”では、認知症を有する利用者が、若い頃やっていた編み物に挑戦。コースターなど簡単なものから取り組み、ついにはマフラーを編み上げました。ご家族の驚きと感動はひとしおだったとか。また、元数学教師、元銀行マン、さらには元宇宙科学者など、数字につよい利用者もいて、”数独パズル”の問題をインターネットから自分で探しだし、プリントアウトして取り組んでいるそうです。
さらに、夏祭りへの参加。その最大の特徴は、「施設主催で夏祭りを開く」のではなく、「地域で行われる夏祭りに出店参加する」ということ。利用者やご家族が主体となって焼きそばを焼いて販売、地域住民との交流を深めるその姿は、リハビリテーションが目指す「参加と活動」の実践そのもの。生き生きとした利用者の写真を見ながら、私たち老人保健施設で働く者にとって、利用者が在宅に復帰し、地域社会で再びいろいろな役割を担うことができるように支援していく事が、いかに重要かということを再認識しました。
40代半ばの葉山先生ですが、40歳代も70歳代も、社会の中で人としての「役割」があり、社会との「つながり」が持て、社会の中で「存在」が蘇生する、と強調されました。そのために必要な社会的リハビリテーションとして、(1)その人らしい「個性」が出せる、(2)まずは家族の中で「役割」が出る、(3)次に社会の中で「役割」が見つかる、(4)社会と「つながる」、そして(5)社会の中で「存在」が出せる───と5つを掲げられました。
満員!240人の参加者で、会場は熱気に包まれました。
高齢者が社会の中で、その存在を蘇らせることができるように、とデイサービスけやき通りが取り組んでいる支援の一つが「昭和の学校」。これは、葉山先生自らが講師となって、インターネットで昭和に関する写真や動画、音楽などを集め、クイズを出したり、回想したりする30分の講座だそうです。昭和を生き抜いてきた利用者が主役のコーナーで、インターネットを大きな画面で映すことができれば、簡単に行えるとのこと。さっそく取り組んでみたいと思いました。
「こうやってしゃべっていることができるのは、支援してくれた地域の人たちのおかげ。お礼を言わせて下さい」としめくくられた、葉山先生の講演。予定の2時間があっという間に過ぎてしまったと感じるくらい、楽しく、ためになるお話でした。今後ますますのご活躍を祈念いたします。
デイサービスけやき通りのホームページアドレスは
http://www4.ocn.ne.jp/~keyakist/index.html
ぜひ一度、アクセスしてみて下さい。