「(6)「もの忘れ」だけでは説明できない」では、アルツハイマー型認知症(AD)の進行の目安について「記憶障害、記銘障害に始まって、見当識障害、IADL(高次日常生活動作)障害からBADL(基本的日常生活動作)障害になるという、このあたりは、一般的な知識、もの忘れで理解できます。しかし親しい人の顔まで忘れ、セルフケア不足、BPSD(認知症の行動・心理症状)の発生、そして食事介護といったところを、もの忘れだけで説明できるか、ということです」と疑問を投げかけながらスライドを進めました。
「高度AD期には親しい人の顔もわからない。『顔まで忘れた』という言い方をすることも多いかと思います。記憶障害の進行も十分に考えられますが、視空間失認、見るものをうまくとらえられないのではないか、という考えもできます」と言いながら「①視覚的情報、②『①+③』の照合→認知、③視覚的記憶」が図示された「右頭頂葉の視空間認知機能」というスライドを示し、「(右頭頂葉には)視覚的情報と視覚的記憶の場所があり、それを照合する場所があります。これを認知して『見ているものが何か』と理解できています。もしこの1つ以上が障害されたら、『見ているもの』がだれかわかりません。ですからこれは記憶だけじゃなくて、見るところ、照合するところのどちらかがやられたら見えているものがそれだとはわかりません。ですから記憶だけの問題ではないということです」との解説に、参加者は興味津々に聞き入りました。
これに続き声(聴覚)ではわかるが顔を見てもわからない高次脳機能障害「相貌失認」にも言及しつつ「記憶障害だけで人の顔がわからなくなるのではないということです」と田代先生は繰り返しました。この日の教育講演のテーマとして掲げた、「『もの忘れだけからの解釈』から新・段階への展開」の真意を会場全体が共有した瞬間でした。
(つづく)