開催しました!「九州大会inみやざき」(その12)

「(6)「もの忘れ」だけでは説明できない」では、アルツハイマー型認知症(AD)の進行の目安について「記憶障害、記銘障害に始まって、見当識障害、IADL(高次日常生活動作)障害からBADL(基本的日常生活動作)障害になるという、このあたりは、一般的な知識、もの忘れで理解できます。しかし親しい人の顔まで忘れ、セルフケア不足、BPSD(認知症の行動・心理症状)の発生、そして食事介護といったところを、もの忘れだけで説明できるか、ということです」と疑問を投げかけながらスライドを進めました。

「高度AD期には親しい人の顔もわからない。『顔まで忘れた』という言い方をすることも多いかと思います。記憶障害の進行も十分に考えられますが、視空間失認、見るものをうまくとらえられないのではないか、という考えもできます」と言いながら「①視覚的情報、②『①+③』の照合→認知、③視覚的記憶」が図示された「右頭頂葉の視空間認知機能」というスライドを示し、「(右頭頂葉には)視覚的情報と視覚的記憶の場所があり、それを照合する場所があります。これを認知して『見ているものが何か』と理解できています。もしこの1つ以上が障害されたら、『見ているもの』がだれかわかりません。ですからこれは記憶だけじゃなくて、見るところ、照合するところのどちらかがやられたら見えているものがそれだとはわかりません。ですから記憶だけの問題ではないということです」との解説に、参加者は興味津々に聞き入りました。

これに続き声(聴覚)ではわかるが顔を見てもわからない高次脳機能障害「相貌失認」にも言及しつつ「記憶障害だけで人の顔がわからなくなるのではないということです」と田代先生は繰り返しました。この日の教育講演のテーマとして掲げた、「『もの忘れだけからの解釈』から新・段階への展開」の真意を会場全体が共有した瞬間でした。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その11)

2004年に「痴呆」という用語を「認知症」と改めたことなどを契機として「認知症を知り、地域をつくる10ケ年」の構想が2005年4月にスタート。認知症サポーター、認知症キャラバン隊、オレンジリング、認知症サポート医などが誕生し、一定の効果があったかと思われたものの、2002年の推計認知症者数を、2013年に調べ直し再々検討すると、2倍以上になったことが明らかとなったことをグラフに示した田代先生、「やってきたことが無駄ではないですが、『間に合わない』ということがわかりました。そこでどうなってきたかというと、『認知症の人は、施設や病院から在宅中心で看ざるを得ない』という方向に大きく変わりました。それが地域包括ケアシステムの推進とともに始まったと言っても過言ではありません」と強調。認知症推計数の間違いにより、既存の施策の終了前に、新たな施策を行うこととなった経緯を説明すると、参加者はうなずきながら聞き入っていました。

また、2019年に公表された「『共生』と『予防』を両輪とする認知症施策推進大綱」については、「共生」が「認知症の人が尊厳と希望をもって認知症とともにいきる。また認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる」という意味であり、一方「予防」は「『認知症にならない』という意味ではありません。『認知症になる』という前提で考えるということです」とし、「認知症になるのを遅らせる」そして「認知症になっても進行を遅らせる」の2つを示した上で、「『“認知症になっても進行を遅らせる”というのは予防なのか?』と疑問を持つかもしれません」と前置きし、「疾病予防、早期発見、早期治療そして重症化予防」という疾病の予防と同様、認知症の予防も「認知機能低下の予防、早期発見、早期対応、そして重度化予防」という考え方であることを示し「ならないことだけが予防ではありません」と説明を加えました。

その上で田代先生は、認知症者の家族が気づいた様々な初期症状に思い当たった際、「これまでは『思い当たることがあれば、かかりつけ医に相談しましょう』としていましたが、これからはこれらの初期症状に気づくだけでなく、その発現の『ウラ・理由・背景』を探り、考えることが、その人への対応に結びつき、認知症の進行を穏やかにし、本人の自立した時間が長くなることにつながると私は思います」と、「もの忘れ」だけからの発想を再考することが認知症の新たな段階として大事であると訴えました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その10)

 教育講演は(1)認知症施策の背景・経緯・展望、(2)認知症機能障害VS認知症、(3)立方体模写テストの意味?(4)ADの記名障害、(5)ADの想起障害と逆行性健忘、(6)「もの忘れ」だけでは説明できない、(7)MCIと軽度ADの心理状態、(8)ADと高次脳機能障害、(9)右脳と左脳そしてAD・・・という内容で進められました。

これに先立ち、「認知症の方は道に迷う人が多い」という警察発表に関する最近の新聞記事を紹介。それによると2023年では2023年において約2万人の捜索願が出され、そのうち250人が未発見、また500人が遺体で発見されたという状況に触れ、「なぜ認知症の人は行方不明になるのでしょうか。いろんな理由があるかと思います」と切り出しました。そして、この原因のひとつとして、「今いる街並みに見覚えがなく、どこかわからず、行きたい場所へ行けない」という「街並失認」、そして「今いる場所は理解できるが、ここから行きたい場所に行けない」という「道順障害」からなる高次脳機能障害の1つ「地誌的見当識障害」というものがあることがわかっているとし、「このあたりのことも認知症と併せて考えていくと、もう少し理解が深まるのではないかと思います」と会場に語りかけました。

 そして「(1)認知症施策の背景・経緯・展望」では、「痴呆」とよばれた時代において、認知症の概念や症状が離解されず、認知症の人は疎んじられ、適切なケアがなされないどころか、身体拘束や虐待の対象にもなっていた現状に鑑み、厚生省(現厚生労働省)が昭和61年に痴呆性老人対策本部を設置したのを皮切りに、さまざまな施策の拡充を図ってきた経緯を紹介。

 しかしこれらは「あくまで進行した認知症の研究そして進行した認知症者の受け皿作りであり、現在も国民の多くは『進行した認知症が認知症』という認識が根強いです」と指摘しました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その9)

基調講演に続き、教育講演「認知症の初期症状を紐解きケアにいかす『物忘れだけからの解釈』から新・段階への展開」がありました。講師は潤和会記念病院の認知症ケアチームリーダーで、日本認知症ケア学会九州沖縄2地域部会長の医師、田代学先生。

田代先生は1901年、田代クリニックを開院。当時としては珍しい在宅医療、デイケア、産業医などを行い、老人施設の診療をする中、認知症ケアの重要性を感じ、2006年より認知症サポート医、認知症ケア専門士、同上級専門士等を習得。2012年より

潤和会記念病院リハビリ科に勤務するかたわら、2014年より日本認知症ケア学会九州沖縄2地域部会長に就任。認知症ケアの講演・啓蒙活動を本格化させましたが、コロナ蔓延により講演活動ができなくなると、2021年3月より認知症ケアYouTube「まなぶチャンネル」を開設。2年間で100本、28時間の動画を配信してきました。また今年11月24日、福岡市のアクロス福岡で開かれる同学会の日本認知症ケア学会九州ブロック大会の大会長を務めておられます。この日はそんなご多忙の合間を縫って、本大会の教育講演に登壇して下さいました。

YouTubeで配信中の「まなぶチャンネル」は認知症に関する講義がスライド形式でわかりやすく進められています。また田代先生は郷土歴史研究家としても知られ、宮崎県の風土地処理の歴史を紹介する動画もあって、学びどころ、見どころ満載です。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その8)

東憲太郎会長の基調講演はその後「LIFFEを活用した質の高い介護」、「リハ・口腔・栄養の一体的取組」、「医療と介護の連携の推進(含む医療提供機能の強化)」、「新たな地域医療考想等に関する検討会」、「規制改革推進会議」と進みました。

この中で「医療と介護の連携の推進(含む医療提供機能の強化)」では、その重要性がますます高まっていることに触れた上で「医療機関はこれまで老健に興味がなかった所も多く、大きな認識のずれがあると思います。いつも満床だと思っている人も多いのではないでしょうか。『老健は認知症にも強く、リハビリテーション機能もあり、医療機能もあり空床もありますのでいつでも受けられます』と丁寧に説明するなど努力しないと稼働率は上がってきません」と、各老健施設の営業努力の必要性を訴求しました。

 最後に今年5月に全老健が実施した「令和6年能登半島地震」の被災地視察の報告がありました。今年の1月1日16時10分に発生し、石川県で震度7の揺れを観測したマグニチュード7.6の地震について「本当に悲惨な状況でした」と切り出した東会長、「ある意味(東日本大震災での)東北よりひどい。なぜなら東北は上からも下からも、東からも西からもアプローチができたので復興が早かったです。それに対して能登は下からしかアプローチできません。大きい港もないから海からもアプローチできません。道路は寸断されてがたがたでした。そこが今やっとつながったところです。倒壊した家屋は全然片付けられていません」とスライドでその惨状を紹介。損壊が激しく、再開不能となった老健施設もあること知り、参加者は言葉を失いましいた。

この震災に対し、全国の会員、都道府県支部から支援金が寄せられたことに感謝し、そして集められた支援金を被害があった施設に分配したことを報告するとともに、被災地へのお見舞いの言葉を述べて、基調講演は締めくくられました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その7)

「令和6年度介護報酬改定と老健施設の今後の在り方」と銘打った、全老健東憲太郎会長の基調講演。「DXがもたらした効果」というスライドがスクリーンに示されました。

 それによると(1)記録業務60パーセント以上削減、(2)居室環境の見直し、(3)夜勤業務の負担軽減(巡視70パーセント減)、(4)家族へのスムーズな連絡、(5)同意が早くもらえる(サインレス、押印なし)により、①利用者との関わり増、②情報共有の効率化・質向上、③ペーパーレス、④就職希望の魅力になる、⑤離職を防ぐ・・・などの効果があるとのこと。この中で④については「いこいの森に今年入った介護福祉士が『こういうのを見て就職を決めました』と言っていました」と説明に、参加者は身を乗り出して聞き入っていました。

 そしてこれらのデジタル運用に係るコストを示すとともに、「令和6年度介護テクノロジー導入支援事業〔地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)」について説明を始めました。これはこれまでの「介護ロボット導入支援事業」および「ICT導入支援事業」を発展的に見直した事業で、介護人材の確保が喫緊の課題とされる中、介護ロボットやICT等のテクノロジーを活用し、業務の改善や効率化を進め、職員の業務負担軽減をはかり、直接的な介護ケアの業務に充て、介護サービスの向上に繋げていく介護現場の生産性向上を推進する一度として、介護業者テクノロジーを導入する歳の経費を補助し、生産性向上による働きやすい職場実現を推進する事業。

 ただし事業の実施主体である都道府県によりこの事業の計上額には大きな差があり、1施設当たりの予算額も大きな開きがあり、老健や特養の数から考えて、ICT導入には全く足りない県が多く、十分な取り組みができていない現状があることを指摘。その上で「令和6年度補正予算でのこの予算の積み増しについて、都道府県議会会員などへの要望活動が必要です」と訴えました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その6)

いこいの森ではこの見守りナースコール等を有効活用することにより夜間の巡視がほとんどなくなったそうです。「それまでは2時間おきに巡視して、利用者全員を見ていました。部屋に行ってドアを開けてカーテンを開けて見る、すると利用者は起きてしまう。つまり巡視は定期的に利用者を起こしてしまうことなのです。それで『(利用者が)寝ていない』ではいけません。またいこいの森では夜間のおむつ交換をなくしました。夜8時に交換したら、朝5時まで交換しない。すると夜勤者はすることがあまり無くなってしまいました。トイレ誘導はしないといけませんが、することがなくなり、過眠も取れる。それで夜勤希望者が増えました」と、東会長はICT化・DX化が利用者、職員双方にとってメリットが大きい事を強調しました。

 さらに「生産性向上等を通じた働きやすい職場づくり」に関して、LINEを用いた施設と家族間の連絡網として活用できるツールが紹介されました。「これは非常に便利です。まず施設の中での職員間の連絡網として、BCP等の際に使えます。そして施設と家族間の連絡網としてケアプランやリハ計画書をLINEで送り、家族から同意確認ももらえます。家族にとってはこれまで3ヶ月に1度施設に来てもらわなくてはいけなかったが、家族も行かなくて良くなりました。その他、面会の予約ができたり、家族への一斉連絡、そしてイベントの案内やライブ配信もできたりします」と胸を張りました。

 続けて老健薬剤管理システムを活用した電子処方箋について紹介。「老健施設内の薬の処方箋は以前だと紙ベースで、その束を薬局にいちいち持って行っていましたが、今はオンラインつながっていて、データで送れます。処方箋の電子化が老健でできています」と説明。その電子処方箋もまた音声で入力している事が言い添えられました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その5)

 「生産性向上等を通じた働きやすい職場づくり」について、「今回『生産性向上推進体制加算』というのをつけてもらいました。これは厚労省と財務省がかなりやりあってなんとか勝ち取った加算です。高い方の『加算Ⅰ』は100単位。個別加算ではありません。施設全体の体制加算です。これは100人いれば全員取れて一月10万円です。すぐに取れないかもしれませんが、上の加算がとれるようにトライして下さい」と呼びかけ、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入や、介護助手の導入によるタスクシフトについて具体的に説明を始めました。

東会長が施設長を務める介護老人保健施設いこいの森では全職員がインカムを導入。はじめは有線方式だったのを現在はブルートゥース方式の骨伝導に変更。また全てのベッドに高度なカメラを備えた見守りシステムを設置、そこからの情報はクラウドに情報を上げ、呼吸状態の異常や転倒、転落などをAIが判定し異常を察知するとただちにインカムに伝えるとのこと。そのため誰かがずっと監視しておく必要がないとこ。

また記録システムへの入力は、それぞれの現場からスマートフォンを通じた音声で行っているそうですが、様々な情報を同じ端末でやりとりする中で、その優先順位は「①異常事態発生の通知」「②ナースコール」「③職員間のインカムのやりとり」「④記録」と、情報の重要度と緊急性を考慮したものになっているとの説明に、参加者は納得しながら聞き入っていました。

さらに異常発生時にはその状況が動画で確認、記録されるため、瞬時の状況把握はもとより、再発防止のための安全な環境設定に有効であるとのことが、スライドに実例を示しながら説明がありました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その4)

 開会式に続き、基調講演「令和6年度介護報酬改定と老健施設の今後の在り方」が始まりました。講師は来賓挨拶もしていただいた、公益社団法人全国老人保健施設協会(全老健)の東憲太郎会長。

開口一番、今回の同時改定では介護報酬の改定率が初めて診療報酬の改定率を上回ったことに触れ、「機能の高い老健ほど報酬単価を上げさせてもらいました。令和6年3月の審査分で全国の介護老人保健施設のうち、超強化型は全体の31.3%に増加し、約75%が加算型以上になっています。老健の機能を今後も高めていって欲しいと思います」と老健の機能強化の必要性を強調しました。

介護職員等の処遇改善加算の1本化については令和7年4月以降、職場環境要件における必要項目が増える点について注意喚起。その中で「介護職員等処遇改善加算ⅠとⅡについては、『⑰厚生労働省が示している“生産性向上ガイドライン”に基づき、業務改善活動の体制構築』、『⑱現場の課題の見える化』は必須です。また加算を取らなくても業務改善活動の体制構築、委員会やプロジェクトチームの立ち上げ等は、やらないと減算になりますので注意して下さい」と念を押しました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その3)

 大会には関係機関等から御多忙の合間を縫ってご来賓としてご隣席賜りました。

 

東 憲太郎会長

 来賓挨拶ではまず公益社団法人全国老人保健施設協会の東憲太郎会長がマイク前に立ちました。「私は実は宮崎生まれでして、中学校を卒業するまで宮崎にいました。ですから宮崎は非情に思い入れの深い地です。久し振りに宮崎に帰って来られて感無量です。今回の同時改定において、介護報酬はプラス改定となり、その中で頑張っている老健にはかなり手厚くしていただいたつもりです。ただし、稼働率が上がらないという問題があります。年度のかつては空床があるなど考えられなかった特養に、現在は空床があります。介護医療院やサ高住や有料老人ホーム、そしてグループホームなどの終生施設は乱立し飽和状態にあります。しかし私達老健施設はそういう終生施設の争いに巻き込まれるようなことがあってはならないと思っています。老健は在宅支援施設ですので、在宅の要介護高齢者をしっかりサポートしていく、在宅要介護高齢者にとって、本当に助かる存在、利便性が高く『老健があるから在宅生活が成り立つ』と言っていただけるような存在になれば決して老健の稼働率が下がることはないと信じています。そのためにはみなさんも、地元の医療機関等への働きかけがないといけないと思います。全職員が一致団結して医療機関等への働きかけ、営業をしてほしいと思います」と大会の成功と今後の会員老健施設の取り組み強化へエールをおくっていただきました。

河野俊嗣知事

 続いて河野俊嗣宮崎県知事よりお言葉を頂きました。「皆様には介護の現場の第一線で支えていただいていることに深く敬意を表し、また感謝を申し上げます」と切り出した上で新型コロナウイルス感染症への対応、南海トラフ巨大地震等の防災への備え、そして介護人材確保対策や外国人介護人材の受け入れなどといった問題に言及。「しっかりとこういった課題を見据えながら、ひとつひとつを克服し、これからますます進む高齢社会において、福祉や介護を考えていかなくてはなりません。老健は医療と介護の両方を担いながら高齢者と地域をつなぐ重要な施設であろうと思います。九州各県の現場の皆様が交流を深めながら実りある大会となることを祈念しています」と会場に訴えました。

そして挨拶の締めくくりに、「宮崎の強みについて『5つの“S”という表現で県外の方に紹介しています。『食』『スポーツ』『自然』『森林資源』『神話』の5つです。そんな宮崎を堪能してください。この大会の開催にご尽力くださいました全ての方に心から感謝を申し上げ、そして県外からお越しになっている皆様に心から歓迎を申し上げます」と会場を埋めた参加者に笑顔で語りかけました。

(つづく)

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