開催しました!「九州大会inみやざき」(その16)

一方、「事前指示をどの程度正確に守ってほしいか」ということに関する研究で、アメリカの透析患者の場合、39%が「完璧に守って欲しい」と答えたのに対し、日本では12%にとどまっているという違いを踏まえ、「自分の気持ちも少しは取り入れて、主治医や家族である程度決めて欲しいという」傾向がある日本人は、「終末期において、自分のためよりも家族の事をおもんぱかる、『Relational Autonomy、関係性の中の自分』が大事なのではないかということがわかってきました。それでアドバンス・ケア・プランニングも日本文化に合わせ、自立尊重を取り入れたものにしなくては効力を発揮しないのではないかと思ったわけです」と、日本版のアドバンス・ケア・プランニングの定義と行動指針作りへ取り組むようになった経緯を語ると、参加者は話の続きを聞き漏らすまいと身を乗り出していました。

つづいて、人生のものがたりには、書き換えがつきものであることに触れ、実際の現場で役立つのは尊厳死宣言書でも具体的な医療行為に対する指示でもなく、その人がもしパッタリと倒れたとき、「今の、この状況を、本人が理解して、希望を述べることができるなら、何を希望するだろうか」を周囲理解できると、本人の意向が尊重されるとともに、医療者や決めなくてはいけない家族のプレッシャーも減るということが、厚労省のガイドラインが唱える「推定意思」につながってくることが重要であるとし、「人生観や価値観、死生観、人生のものがたり、ナラティブといったものがしっかりと塗り込められていることが大切になってきます。こういったものが根底にあるアドバンス・ケア・プランニングを作って欲しいと思います」と要点を押さえながら日本医師会のパンフレットをスライドに提示。「アドバンス・ケア・プランニングは将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。患者さんの人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしています」、さらに「将来の変化にそなえ、患者さんの意思を尊重した医療及びケアを提供し、その人生の締めくくりの時期に寄り添うために必要と考えられる内容について話し合うことが必要です」と、「人工呼吸器をつけるかどうか」といった医療行為を決めておくことよりも、患者が大切にしたい人生観や価値観、希望などを決めておくことが重要だと訴えました。

日本医師会「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」はこちらから閲覧、ダウンロードできます

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その15)

「ACPは免罪符ではない」ということを理解してもらいたいとマイクを握った三浦先生。1990年頃登場した事前指示(Advance Directive)およびこれを文書にしたリビング・ウィルの経緯を踏まえつつ、事前指示に関する研究から「残念ながら、家族の主治医も、患者の希望を聞いていませんでした」という結論に至ったことを説明。「ただし、ここでくじけるだけではしょうがないので、『自分の望む形の終末期を過ごしたければ、事前に指示しておくしかない』と思ったので、『死生観を共有するための話し合いを大切にしましょう』と当時から言い始めました。これが後のアドバンス・ケア・プランニングにつながっていくわけです」と発表活動等を重ねるうち、まず透析分野で普及してきたそうです。その理由として「透析は週3回、4時間から5時間、長年同じクリニックに通院しているため、患者と医療従事者との関係性が構築されます。透析中の時間に色々と話をする中でその人となりがわかってきます。もうひとつ大事なことは、透析に通っている患者さんは、一般の人よりも終末期に対する実感がありますので、そのようなことから一般の患者より透析患者で普及したのかなと思います」とスライドを用いながら言葉を加えていきました。

そこで手応えを得た三浦先生は、一般人向けの事前指示書も作成。「フルコース」と表現しつつ、全部の項目について、様々な選択肢を設けた事前指示書ですが、「これを全部書き上げることができた患者さんをお目にかかったことはありませんでした。事前指示書は患者さん自身が作り上げるものと言われています。そんなに細かい事を自分だけで作り上げるのは難しく、細かく作れば作るほど、実際の場面で実情に合わず、医療行為に対する希望はその時々の状況に変わってくるので、あまり前の段階から最終段階の医療行為を決めるのは意味がないということです」とアメリカの研究でも同様の結果だったことを例示し、事前指示書が有効でなかった理由として推定されている要因として「将来の状況を予想すること事態が困難」という「患者の要因」、そして「家族等が事前指示書の作成に関与していなかったり、患者がなぜその選択をしたか、その理由や背景や価値がわからなかったりするから役に立たない」などといった「その他の要因」を挙げました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その14)

教育講演に続いては「ACP(:アドバンス・ケア・プランニング、『人生会議』)」をテーマに掲げ、市民公開講座を開きました。

この公開講座にはお二人の先生を講師にお招きしました。最初に演台に立ったのは日本ACP研究会会長で岩手保健医療大学看護学部成人看護学領域教授、そして臨床倫理研究センター長、さらに東京慈恵会医科大学客員教授の医師、三浦靖彦先生。

「私の講演のテーマは『よりよく生きるための人生会議を始めよう』ですけれども、2018年にアドバンス・ケア・プランニングという言葉が突然降って湧いたように日本にも入ってきたわけです。そしてその11月30日には『いい看取り・看取られ』というニックネームを付けて『もしものときのための人生会議』というふうに言われていました。日本医師会のガイドブックを見ても『終末期医療』と書いてあったり『もしものときのために』と書いてあったりするので、『これは要するに意識がなくなった後のこととか、人生の最終段階のことを、考えるの?』というふうに思われがちです。例えば病院に入院するとき、『何かあった歳には“人工呼吸器はつけなくていいです”、“心臓マッサージは受けなくてよいです”という念書を病院側がとっています』ということはよくあって、『うちの病院はACPちゃんとやっています』と言っていたりするんですが、医療行為を事前に指示しておく『事前指示』は、アドバンス・ケア・プランニングのごく一部です。しかも、これに『はい』と言わないと入院させてもらえない雰囲気をぷんぷん漂わせているということが結構あります。これは事前指示というよりも無理矢理念書を書かせるという感じもします。高齢者施設においても、入居のときに『いざという時に救急車を呼ばなくてよいです』、『延命治療を受けさせなくてよいです』と家族からサインをもらい『うちの施設はちゃんとACPやっています』と言っても、これは『家族の希望』であって、『本人の希望』はどこにも書いていない、ということが多いです。今日はそのあたりのことをお話ししたいと思います」と切り出した三浦先生の話を聞こうと、会場は一般の来場者も席を埋め、熱気を帯びてきました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その13)

認知症の人に見られる症状の原因について、単に記憶障害だけではなく、高次脳機能障害など、様々な原因があることを指摘した田代学先生、食事が自分で摂れなくなる事の要因として、左脳の意味化・行動調整機能にも言及し、右脳からの視覚情報を基に、意味化し、、箸を上手に使って口を開けて食べる、という左脳の役割のどこかが障害されることで、自分で食べることができない可能性があるとし、「声掛けだけで食事介助がうまくいくか、というケアの方法も考えないといけないと思います。食べ方を忘れただけではないということです」と続けました。

講演は更に「(7)MCIとADの心理状態」「(8)ADと高次脳機能障害」「(9)右脳と左脳そしてAD」と進められましたが、どの章も非常に興味深く、また豊富なスライドを用いたわかりやすい内容で参加者は集中を切らすこと無く学んでいました。

「今日話したかったのは、認知症状の原因は記憶障害だけでなく高次脳機能霜害や心理状態、そしてケアや環境など、もっとあるということです。もっと違った考え方で認知症の人をみると、その人にとってより良いケアができ、そして自分たちの将来がしてもらえるのではないかと思います」と講演を締めくくった田代先生に、会場からは感謝の拍手がおくられました。

(つづく)

引き続き余震にご注意下さい

8月8日16時43分に宮崎県南部平野部で地震が発生し、震度6弱などを観測しました。

宮崎県では災害対策本部を設置し、「引き続き、余震に注意してください」と県民に注意を呼びかけています。

県のホームページには県の警報・注意報関連リンクおよび災害情報リンクが貼られていますので、これらの情報等をもとに引き続きご注意願います。 なお、8月9日に掲載を予定していましたブログは延期いたしますので申し添えます。

開催しました!「九州大会inみやざき」(その12)

「(6)「もの忘れ」だけでは説明できない」では、アルツハイマー型認知症(AD)の進行の目安について「記憶障害、記銘障害に始まって、見当識障害、IADL(高次日常生活動作)障害からBADL(基本的日常生活動作)障害になるという、このあたりは、一般的な知識、もの忘れで理解できます。しかし親しい人の顔まで忘れ、セルフケア不足、BPSD(認知症の行動・心理症状)の発生、そして食事介護といったところを、もの忘れだけで説明できるか、ということです」と疑問を投げかけながらスライドを進めました。

「高度AD期には親しい人の顔もわからない。『顔まで忘れた』という言い方をすることも多いかと思います。記憶障害の進行も十分に考えられますが、視空間失認、見るものをうまくとらえられないのではないか、という考えもできます」と言いながら「①視覚的情報、②『①+③』の照合→認知、③視覚的記憶」が図示された「右頭頂葉の視空間認知機能」というスライドを示し、「(右頭頂葉には)視覚的情報と視覚的記憶の場所があり、それを照合する場所があります。これを認知して『見ているものが何か』と理解できています。もしこの1つ以上が障害されたら、『見ているもの』がだれかわかりません。ですからこれは記憶だけじゃなくて、見るところ、照合するところのどちらかがやられたら見えているものがそれだとはわかりません。ですから記憶だけの問題ではないということです」との解説に、参加者は興味津々に聞き入りました。

これに続き声(聴覚)ではわかるが顔を見てもわからない高次脳機能障害「相貌失認」にも言及しつつ「記憶障害だけで人の顔がわからなくなるのではないということです」と田代先生は繰り返しました。この日の教育講演のテーマとして掲げた、「『もの忘れだけからの解釈』から新・段階への展開」の真意を会場全体が共有した瞬間でした。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その11)

2004年に「痴呆」という用語を「認知症」と改めたことなどを契機として「認知症を知り、地域をつくる10ケ年」の構想が2005年4月にスタート。認知症サポーター、認知症キャラバン隊、オレンジリング、認知症サポート医などが誕生し、一定の効果があったかと思われたものの、2002年の推計認知症者数を、2013年に調べ直し再々検討すると、2倍以上になったことが明らかとなったことをグラフに示した田代先生、「やってきたことが無駄ではないですが、『間に合わない』ということがわかりました。そこでどうなってきたかというと、『認知症の人は、施設や病院から在宅中心で看ざるを得ない』という方向に大きく変わりました。それが地域包括ケアシステムの推進とともに始まったと言っても過言ではありません」と強調。認知症推計数の間違いにより、既存の施策の終了前に、新たな施策を行うこととなった経緯を説明すると、参加者はうなずきながら聞き入っていました。

また、2019年に公表された「『共生』と『予防』を両輪とする認知症施策推進大綱」については、「共生」が「認知症の人が尊厳と希望をもって認知症とともにいきる。また認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる」という意味であり、一方「予防」は「『認知症にならない』という意味ではありません。『認知症になる』という前提で考えるということです」とし、「認知症になるのを遅らせる」そして「認知症になっても進行を遅らせる」の2つを示した上で、「『“認知症になっても進行を遅らせる”というのは予防なのか?』と疑問を持つかもしれません」と前置きし、「疾病予防、早期発見、早期治療そして重症化予防」という疾病の予防と同様、認知症の予防も「認知機能低下の予防、早期発見、早期対応、そして重度化予防」という考え方であることを示し「ならないことだけが予防ではありません」と説明を加えました。

その上で田代先生は、認知症者の家族が気づいた様々な初期症状に思い当たった際、「これまでは『思い当たることがあれば、かかりつけ医に相談しましょう』としていましたが、これからはこれらの初期症状に気づくだけでなく、その発現の『ウラ・理由・背景』を探り、考えることが、その人への対応に結びつき、認知症の進行を穏やかにし、本人の自立した時間が長くなることにつながると私は思います」と、「もの忘れ」だけからの発想を再考することが認知症の新たな段階として大事であると訴えました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その10)

 教育講演は(1)認知症施策の背景・経緯・展望、(2)認知症機能障害VS認知症、(3)立方体模写テストの意味?(4)ADの記名障害、(5)ADの想起障害と逆行性健忘、(6)「もの忘れ」だけでは説明できない、(7)MCIと軽度ADの心理状態、(8)ADと高次脳機能障害、(9)右脳と左脳そしてAD・・・という内容で進められました。

これに先立ち、「認知症の方は道に迷う人が多い」という警察発表に関する最近の新聞記事を紹介。それによると2023年では2023年において約2万人の捜索願が出され、そのうち250人が未発見、また500人が遺体で発見されたという状況に触れ、「なぜ認知症の人は行方不明になるのでしょうか。いろんな理由があるかと思います」と切り出しました。そして、この原因のひとつとして、「今いる街並みに見覚えがなく、どこかわからず、行きたい場所へ行けない」という「街並失認」、そして「今いる場所は理解できるが、ここから行きたい場所に行けない」という「道順障害」からなる高次脳機能障害の1つ「地誌的見当識障害」というものがあることがわかっているとし、「このあたりのことも認知症と併せて考えていくと、もう少し理解が深まるのではないかと思います」と会場に語りかけました。

 そして「(1)認知症施策の背景・経緯・展望」では、「痴呆」とよばれた時代において、認知症の概念や症状が離解されず、認知症の人は疎んじられ、適切なケアがなされないどころか、身体拘束や虐待の対象にもなっていた現状に鑑み、厚生省(現厚生労働省)が昭和61年に痴呆性老人対策本部を設置したのを皮切りに、さまざまな施策の拡充を図ってきた経緯を紹介。

 しかしこれらは「あくまで進行した認知症の研究そして進行した認知症者の受け皿作りであり、現在も国民の多くは『進行した認知症が認知症』という認識が根強いです」と指摘しました。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その9)

基調講演に続き、教育講演「認知症の初期症状を紐解きケアにいかす『物忘れだけからの解釈』から新・段階への展開」がありました。講師は潤和会記念病院の認知症ケアチームリーダーで、日本認知症ケア学会九州沖縄2地域部会長の医師、田代学先生。

田代先生は1901年、田代クリニックを開院。当時としては珍しい在宅医療、デイケア、産業医などを行い、老人施設の診療をする中、認知症ケアの重要性を感じ、2006年より認知症サポート医、認知症ケア専門士、同上級専門士等を習得。2012年より

潤和会記念病院リハビリ科に勤務するかたわら、2014年より日本認知症ケア学会九州沖縄2地域部会長に就任。認知症ケアの講演・啓蒙活動を本格化させましたが、コロナ蔓延により講演活動ができなくなると、2021年3月より認知症ケアYouTube「まなぶチャンネル」を開設。2年間で100本、28時間の動画を配信してきました。また今年11月24日、福岡市のアクロス福岡で開かれる同学会の日本認知症ケア学会九州ブロック大会の大会長を務めておられます。この日はそんなご多忙の合間を縫って、本大会の教育講演に登壇して下さいました。

YouTubeで配信中の「まなぶチャンネル」は認知症に関する講義がスライド形式でわかりやすく進められています。また田代先生は郷土歴史研究家としても知られ、宮崎県の風土地処理の歴史を紹介する動画もあって、学びどころ、見どころ満載です。

(つづく)

開催しました!「九州大会inみやざき」(その8)

東憲太郎会長の基調講演はその後「LIFFEを活用した質の高い介護」、「リハ・口腔・栄養の一体的取組」、「医療と介護の連携の推進(含む医療提供機能の強化)」、「新たな地域医療考想等に関する検討会」、「規制改革推進会議」と進みました。

この中で「医療と介護の連携の推進(含む医療提供機能の強化)」では、その重要性がますます高まっていることに触れた上で「医療機関はこれまで老健に興味がなかった所も多く、大きな認識のずれがあると思います。いつも満床だと思っている人も多いのではないでしょうか。『老健は認知症にも強く、リハビリテーション機能もあり、医療機能もあり空床もありますのでいつでも受けられます』と丁寧に説明するなど努力しないと稼働率は上がってきません」と、各老健施設の営業努力の必要性を訴求しました。

 最後に今年5月に全老健が実施した「令和6年能登半島地震」の被災地視察の報告がありました。今年の1月1日16時10分に発生し、石川県で震度7の揺れを観測したマグニチュード7.6の地震について「本当に悲惨な状況でした」と切り出した東会長、「ある意味(東日本大震災での)東北よりひどい。なぜなら東北は上からも下からも、東からも西からもアプローチができたので復興が早かったです。それに対して能登は下からしかアプローチできません。大きい港もないから海からもアプローチできません。道路は寸断されてがたがたでした。そこが今やっとつながったところです。倒壊した家屋は全然片付けられていません」とスライドでその惨状を紹介。損壊が激しく、再開不能となった老健施設もあること知り、参加者は言葉を失いましいた。

この震災に対し、全国の会員、都道府県支部から支援金が寄せられたことに感謝し、そして集められた支援金を被害があった施設に分配したことを報告するとともに、被災地へのお見舞いの言葉を述べて、基調講演は締めくくられました。

(つづく)

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