かつて・・・40年近く前でしょうか、少年達の自転車の憧れと言えば「5段変速」。松山千春だって歌ってました。変速器はサドルから前にまっすぐ延びるフレームについていて、自動車のギアチェンジみたいに”ガシャガシャ”とやるのがすっごく格好良かったです。しかし、片手運転になるためか、はたまた技術の進歩か、今はハンドルの所にスマートについてますし、車だってオートマが主流になりました。
そうそう、オートマと言ってよいのかどうか、「パーフェクトチェンジ(PC)」を謳った5段変速自転車がありました。これはコントローラーがハンドルについていて、それを操作するとモーターが”ウィーン”と作動して、1速から5速までを「完璧に」チェンジするという画期的な電動変速装置を備えていました。ハンダース(あごいさむさんがいました)が宣伝し、購入すると彼らのプリントされた特性Tシャツがもらえました。ただし、この「パーフェクトチェンジ」、電池が切れたら役に立ちません。変速するには一旦自転車を降りて、ドライバでネジを回さなくてはならないという始末でした。
同様に当時の少年にとって羨望の的だった「フラッシャー」(いわゆる方向指示器で、左右に光がピカピカピカと走って曲がる方向を示してました)、そしてフォグランプ(霧の中でも安全に走れるように、黄色のランプが電池で光って綺麗でした)なども、最初は面白がって使っていましたが、電池が切れたら役立たず。そのうち取り外されてしまったりするものもありました。あわれ。
その頃、少年達には手も届かなければ足も届かない自転車がありました。それは「10段変速」です。これは凄かった。スポーツ仕様の細いフレーム、細くて大きなタイヤ。そしてそしてドロップハンドル!ちょーかっこよかったです。10段変速を操るレバーはハンドルからペダルに下りるフレームの左右についていました。大学生のお兄さん達が颯爽と乗りこなしていましたが、買い物にはちょっと不向きだったようです。
そんなこんなと引っ張って来ましたが、ここからが本論です。「人生は、10段変速の自転車のようなもの。誰もが、自分がもっているものの大半は使っていない」という言葉があります。アメリカの漫画家、チャールズ・シュルツという人の言葉です(「生きる力がわいてくる名言・座右の銘1500」、著者:インパクト、ナガオカ文庫)。
私たちが勤める老健施設は、介護を必要とする高齢者の在宅復帰をサポートする中間施設。そのためには利用者様ひとりひとりについて、できること、できないこと、介助したり自助具を用いればできることなどを正しく評価した上で、必要なところは介助を行い、自力でできることはご自分で行ってもらう、すなわち「リハビリテーション介護」をむねとする施設です。したがって、利用者様が持っている能力を最大限に発揮してもらえるように、全職種、全スタッフが情報を共有し、チームケアを展開していくことが肝要です。自転車よろしく、?段あれば、10段全部を有効かつ適切に使ってもらう、ということが大事なのです。
それはそうと、現在の自転車事情は随分変わりました。画期的なのは電動アシスト機能。そのすごさは、一目瞭然ならぬ「一乗り瞭然」。坂道なんかグングンです。あと、三人乗り自転車も登場しました。そして10段変速は小学生用自転車にもついてるこの時代、24段変速なんてのもあるから、これって全部使いこなせるのだろうか?と思ってしまいます。
同じように、人間一人一人の価値観や人生観も、複雑多岐になってきたのではないでしょうか。老健の利用者様一人一人が、もっているものをフルに発揮できるようにしなくてはならない、そう思った言葉でした。