この柱時計、何を動力源にして動いていたかというと、ゼンマイです。漢字で書くと「発条(もしくは撥条)」です。文字盤の下の方に穴が2つあいていて、片方が振子を動かすゼンマイ、もう片方が「ボーン、ボーン」と鐘を打つためのゼンマイ。鐘の音がうるさくて嫌な家庭では、振子の方だけ巻いていました。ゼンマイ巻きは振子のある小部屋の横に掛けられていて、それをゼンマイの穴に突っ込んで、ギリリ、ギリリと巻いていました。巻きすぎるとゼンマイは切れますから、慎重に巻いていたものでした。
だけど、本当はゼンマイじゃないんです、柱時計を動かしていたのは。それは「チック」と「タック」という2人の小さな小さな子供たち。彼らが振子の中に潜んでいて、二人で「チックタック」と言いながら振子をぶらーん、ぶらーんと揺らしていたのです。千葉省三さんの名作「チックタック」にはちゃんとそう書いてあります。それによると、夜の12時の鐘が鳴ると、「チックタック」の音が止まり、振子の中から彼らが出てくるのです。そして、「チック」と「タック」は家の中で遊んだり、いたずらしたり、台所の料理を食べあさったりしていたわけです。この話の中では、わさびのきいたお寿司を食べてのどをからした2人が、翌朝は「ヂックダッグ」と悲しげな音を出すことになってしまったのですが・・・。
その真意はさておき、写真の柱時計、なーんかおかしい。そうです。ゼンマイを巻くための穴(2か所)が無いんです。これこそ「チック」と「タック」が動かしているのか???
と思ったら、なーんと電池で動いているのでありました<(`^´)>。振子も電池で動いているのでありました。振子の周期が長さで決まる事を利用して発明された柱時計なのに、これじゃあ本末転倒じゃん(+o+)。
まあまあ、仕方ないじゃあありませんか。これもまた時計の、いや時代の流れというものでしょう。子供だった「チック」も「タック」も、もう既に相当な年齢に達していると思われます。振子の中の世界で、介護保険制度が施行されているかどうかはわかりませんが、そろそろ彼らをゆっくりさせてあげてもよいのではないでしょうか。ゆりかごみたくゆらゆら揺れる振子の中で、2人がのんびり外界を眺めながら「昔と今はずいぶん違うよなあ、チック」「そうだねぇタック、俺たちもお寿司のおいしさがわかるようになったしねえ」などと語り合っているかもしれませんね。