老健施設に勤める者の一人として、利用者様の転倒は、最も回避すべき事故の一つだと考え、その予防策について頭を悩ませているところです。
しかし、この転倒事故、利用者様だけの問題ではないということが浮き彫りになってきました。11月14日付けの日本経済新聞に「「介護でバランス崩す/商品仕分け中に滑る 職場で転倒事故増える」という見出しが目を引きました。職場で転倒する事故が徐々に増加し、2005年に労働災害のトップとなり、全体の2割を占めるまでになっているのだそうです。つまり、老健施設で働いている私たち自身も、転倒のリスクが高まっているということです。
厚生労働省によると、2011年に全国で起きた労災は12万件弱で、1999年と比較して15%減ったとのこと。しかしその一方で「転倒」は2万5千件と19%も増加しているのだそうです。しかもその割合は2011年全体の5分の1。
この転倒事故の内訳を業種別に見たとき、医療保健、社会福祉関係が含まれており、その数も急増しているから看過できません。また、事故の内容について、「介護施設で1人で介助していてバランスを崩した」という報告が上がっているとありました。介護する側が転倒するわけですから、ややもするとその際、介護される側にも危険が及んではいないだろうか?という懸念も湧いてきます。
「非正規雇用者の割合が高く、業務に熟練していない人が多いという事情がある」という厚労省関係者の談話がありました。そして全国社会福祉施設経営者協議会の関係者は「介護などの労働市場の全急拡大に労務管理が追い付かない面がある」とコメント。全国的に介護の担い手が不足している中で、転倒事故のリスクは増加の一途というこの現状を早急に解決することが、介護する人、介護される人双方にとって喫緊の課題だと痛感しました。
また、この記事の示すデータは労働災害に限った話。自宅で介護が必要な人の世話をされている方の事故に関しては、ここに上がっていません。自宅で介護をされている方々が皆、介護の知識や技術に関して「熟練」しているか?というと、決してそうとは言えないでしょうし、高齢者が高齢者の介護をする、いわゆる「老老介護」をされている方も少なくない現状を鑑みると、問題はさらに深刻ではないか?と危惧されます。
県内の老健施設では、職員を対象とした介護技術の研修や勉強会はもとより、ご家族や地域住民の方々向けの介護教室を開いているところもあります。介護する側、される側。双方にとって安全で安心な生活が送れるよう、老健施設の果たすべき役割について改めて考えさせられた記事でした。