人一度之を能くすれば己は之を百度す

 「人一度これをよくすれば おのれはこれを百度す」。これは中国の四書のうちの一つ、『中庸』という儒教の総合的解明書の言葉です。人が一回やるところを自分は百回やる。そうすればどんな人でも上手になれる、という意味です。

 夏の甲子園もいよいよクライマックス!どの高校も、どの選手たちも全力でプレーし、その結果、非情にも(?)勝者と敗者に分かれ、泣いたり笑ったりするのですが、その姿の清く、美しいこと!勝敗に関係なく、深い感動を皆に与えるのは、彼らがそれまで必死に練習してきたからではないでしょうか。それは百度なんてものではないでしょう。何千回、何万回も繰り返し、頭でなく身体にしみ込むまで練習をしてきたのだと思います。

 特にそれを感じたのが、16日に行われた能代商業と如水館との試合。能代商業絶体絶命の場面での見事な連携技で、サヨナラのランナーをホームでアウトにしました。それも2回も!17日付け朝日新聞にはそのファインプレーに対し、「好返球 まぐれなし」と見出しをつけていました。監督の指示のもと、この数日間中継プレーを練習していたとのことですが、それまでにも血のにじむような練習を重ねてきたことと思います。中継に入った能代商の遊撃手は、位置も距離感も確認する暇がない状況で、センターからのボールを捕るやいなや、振り向きざまに本塁へ遠投。「間一髪」とはこういう事をいうのか、というお手本のようなきわどさでランナーを刺したのです。その超ファインプレーについて、「必死で、感覚だけで投げた」とのコメントが紹介されていました。この「感覚」こそ、「人一度之を能くすれば己は之を百度す」的な努力の繰り返し&積み重ねによって培われたものではないでしょうか。残念ながら延長戦の末、同校は敗れましたが、努力することの尊さ、そしてそれが結実する素晴らしさを見る者全てに体現してみせてくれました。拍手喝采です。胸を張って郷土に帰ってもらいたいと思いました。

 「努力」や「根性」は、昔懐かし修学旅行のお土産キーホルダーだけの話ではありません。私たち老健職員も、常日頃から努力を重ねることが大事だと思いました。利用者様のために、職場のために、そして自分自身のために。

絆強めるこの一冊

 今ほど日本が「絆」の大切さを噛みしめている時はないと思います。実は、当協会が今年3月に研究大会を開催するにあたり、そのサブテーマを「人と人との絆を結ぶ」と決定しました。昨年11月のことです。それから4か月後の大災害など、予想だにできなかったその時の話し合いで、いくつかの案の中から選んだわけですが、東日本大震災の後、「絆」の大切さが世界レベルで認識されるようになってきました。広辞苑には、「(1)馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。(2)断つにしのびない恩愛。離れがたい情実。ほだし。係累。繋縛」とあります。今使われているのは(2)の意味合いですが、元の意味は(1)ですから、「絆を深める」ではなく、「絆を強める」という言い方が正しいのだそうです。

さて、この「絆」の大切さがひしひしと伝わる一冊を紹介します。『風が強く吹いている』(新潮社)です。著者は”三浦しをん”さん。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞されています(これも名作です)。

ストーリーは、駅伝とは無縁の大学に通う学生達が、たった10名で箱根駅伝を目指すというもの。同じおんぼろアパートに住む彼らのほとんどが初心者。本戦に出場するためには厳しい予選会で上位に入らなくてはなりませんが、それだけでも絶対に無理!実際問題としてあり得ない!!と読みながら思うのですが、しかし、彼らは真剣に「走る」ということに取り組むのです。決して仲良し倶楽部ではない。関係がぎくしゃくしたり、激しい衝突もあったりもします。しかし、そのたびに彼らは絆を強めていくのです。たった一本のタスキに思いを込めて。

詳細は割愛しますが、これでもか!というくらいの直球ど真ん中の青春物語です。各登場人物が個性的で、その一人一人が生き生きと表現されています。ただ単に「走る」という行為なのに、完膚無きまでに感動させられてしまいます。胸にダイレクトにずずーんと響きます。スカーッと爽快な気持ちになります。そして、人と人との絆の大切さを改めて知らされるのです。

読んで損はしません。今年これまでに読んだ作品の中で最高の一冊としてお勧めします(あくまでの個人の感想ですが)。ぜひご一読されてみてはいかがでしょうか。

コンピテンシーという考え方

  コンピテンシーとは、「高い業績を上げている社員の行動特性」のことを言うそうです。これは、「仕事ができる人が具体的にどんな行動をとっているか」とか、「仕事の効果を上げるためにどんな行動をとったのか」というように「業績のよい人は何をしているか?」ということだそうです。つまり、営業マンで例えるならば「〇〇さんはこれだけ売り上げることができる」ではなく、「〇〇さんはこれだけ売り上げるために、具体的にこんな行動をした」というのがコンピテンシーであり、人事管理や人材育成における考え方の一つです。1970年代にハーバード大学のマクラレンド教授らの研究報告に端を発するそうです。

 「コンピテンシー・マネジメント」とは、この点に着目し、好成績を収めた人(ハイ・パフォーマー)を調べて、そのコンピテンシー(具体的にやったこと)を調査、体系化します。それを評価基準や人材育成に役立てるとともに、会社や組織全体の発展等々に活用していく手法です。その最大の特徴は、具体性があって説得力があるということではないでしょうか。「成功した私が実践したことだから間違いない!」と太鼓判を押されたようなもので、「ならばそれがしもやってみようか!」という気持ちにもなります。

 さて、この「コンピテンシー・マネジメント」の考え方を老健のケアにも取り入れられないものでしょうか。利用者様の心身の特性は様々。一つのADLについても、上手にできる人、やっとできる人、全くできない人と様々です。また、同じ程度の障害がある方でも、一方の人はAの動作ができてBの動作ができず、他方の人はAの動作はできないが、Bの動作はできる、ということも皆無ではないのではないでしょうか。できない人について「○○さんはなぜこの動作ができないのだろう?」と原因を考えることは当然あると思いますが、「この動作を上手にできる○○さんは、どんな行動をしているのだろう?」と、顕在能力を明確に評価する事は案外少ないのではないでしょうか。できる利用者様の実際の行動を多角的に観察・分析することで、できない人ができるようになるための手がかりが見いだされれば、すばらしいと思いますし、そのような視点を職員が持つようになれば、今後のケアの在り方も変わってくるのではないでしょうか。

また、当然ながら、コンピテンシー・マネジメントは、老健職員間、さらには老健施設全体にも導入できる考え方と言えます。各人が成長しながら、組織も発展する。しかも、具体的客観性のある行動特性をもってして行われるのですから、取り組みやすいポジティブな手法だし、互いに良い所を認め合うわけですから、組織の結束も高まり、結果として利用者様によりよいケアが提供できることにもつながっていくことが期待できます。十七世紀の初め頃活躍した、イギリスの政治家セシルは、「模範は訓言よりも力強い」と唱えたそうですが、「模範」を「コンピテンシー」と置き換えることもできるのではないでしょうか。コンピテンシーという考え方には老健の未来が見える、ような気がします。

真夏の夜のラジオ

  全国的に暑い日が続いています。寝苦しい夜に寝返りばかりを繰り返し、「羊が足りない!」嘆いている方もおられるのではないでしょうか。

 そんな老健職員と利用者様に絶対お薦めのラジオ番組があります。それはNHK総合の「ラジオ深夜便」の中の、「にっぽんの歌 こころの歌」のコーナーです(午前3時から4時まで)。いわゆる「懐メロ」が中心の1時間。一人の歌手について特集することもあれば、「作家でつづる流行歌」と銘打って往年の名作詞・作曲家の代表作を集めることも。さらに、「昭和歌年鑑」では同一年代に流行った歌手や曲を集めて特集したり、同じ出身地の歌手や、全国津々浦々のご当地ソングを揃えたり、はたまた唱歌や童謡特集もあったりと、趣向を凝らした内容。しかも放送は毎日ですから、日課として耳を傾けているリスナーも少なくないようです(全国各地で「深夜便の集い」というリスナー同士の会合も開かれているほどです)。

 老健職員にとってありがたいのは、「にっぽんの歌 心の歌」は、仕事に非常に役立つ!ということです。このコーナーで流れる曲の多くは、利用者様にとって、いわゆる「青春の歌」。覚えて一緒に歌うと、大変喜ばれます。また、「思いでのフォーク&ポップス」の日は、やや年配の現役老健職員の皆様にとってもまさに「青春の歌」のオンパレード。若かりし頃の事をあれこれ思い出して、ノスタルジック&センチメンタル度120%です。さらに、曲を途中でフェードアウトしたりせず、最初から最初までしっかり流してくれるのも有り難いです(ただし、緊急の災害情報などに急きょ切り替わることはあります)。

 先日、ある寝たきりの利用者様の前で、映画「愛染かつら」の主題歌として有名な「旅の夜曲」を”はーなーも、あらしもー、ふーみこーえーてー”と歌ったところ、涙を流しながら「『歌が病気を治す』って本当なんですね。走って飛び回ているような気持ちです」とおっしゃられました。その言葉にこっちが感動し、しばし返す言葉もありませんでした。

 音楽って本当にいいものですね。熱帯夜の不快なひとときを、「にっぽんの歌 心の歌」でちょっとだけ癒されてみてはいかがでしょうか。

千古不易(せんこふえき)

 昔から永久にかわらないことを言い表す四字熟語です。

 昭和の高度経済成長期からでしょうか、お盆(そして正月)の帰省ラッシュは毎年おなじみのトップニュースとして取り扱われています。南船北馬ならぬ、南車北車が自動車道にひしめき合う姿から、餌場を求めて大移動を行うヌーの行軍を連想してしまいました・・・などと言うと、お叱りを受けそうですが、私自身、かつてはその常連の一人だったのです。ご容赦下さい。

 もちろん、ワニが待ち構える川を命がけで渡るなどという危険なものではありません。帰らなければ飢え死にするわけでもありません。だけど、お盆とお正月には帰りたくなる、いや、帰らなければならない気持ちにさせる。それが故郷というものではないかと思います。日程をずらせば混雑しないのはわかっているけど、それではダメ。渋滞は覚悟の上での帰省です。それだけに、やっと帰り着くと、ほっとします。そして、故郷の良さに改めて気付かされるのです。

 なんにもないけど、全てがあるのが故郷。そこに吹く風の心地よさ、海の青さ、山の緑、川のせせらぎ、空の広がり、鳥のさえずり、そして人の温かさ・・・。いくら写真やビデオに撮り納めても、それらを都会に持って行くことはできないのです。そこに帰って、それらに包まれなければ得られない心の安らぎ。それを求めて人は一路故郷を目指すのではないでしょうか。

 東国原知事以来、おもてなし日本一を目指してきた宮崎県。それは都会から帰省してくる本県出身者達に対しても同様です。時世時節が変わろうとも、千古不易、そして未来永劫、故郷宮崎が武陵桃源(ぶりょうとうげん)であり続けてほしいと願います。

 ただ、今年の帰省ラッシュにあたっては、この度の大震災で、生まれ育った大切な故郷が無残な姿になってしまった方も多くおられ、胸が痛みます。心よりお見舞い申し上げますとともに、故郷のいち早い復興を祈念申し上げます。

講演会を開催します(支援相談研究部会)

(社)宮崎県老人保健施設協会支援相談研究部会では来る910日(土)、宮崎市の宮崎観光ホテル東館2階「日向の間」で、全体会を開き、その中で他職種や他事業者、そして一般の方も対象にした講演会を催します。時間は1330分から1630分まで。

 当日は、社会福祉法人愛泉会 日南病院 抑制疾病研究所の峰松俊夫所長を講師に招き、高齢者施設における医療のあり方についてお話をしていただくほか、口腔機能維持管理加算に関する講演もあります(講師は宮崎歯科福祉センターの歯科医師の先生に来ていただく予定です)。

参加費は、老健職員は一人500円ですが、それ以外の方(一般の方も含む)は無料ですので、振るってご参加下さい。

申し込みは826日までに、別紙申込書にて介護老人保健施設しあわせの里(担当:支援相談員、笠原 章寛)宛てファックス(FAX : 0987-55-4507)にてお願いします。

お問い合わせも同じくしあわせの里(笠原)までお願いします(TEL : 0987-55-4800)。

席に限りがありますので、申し込みはお早めにお願いします。詳細はこちらをご覧下さい。

台風よけには竿に鎌?

 「竿先に鎌をつけ、風上に向けて立てると台風よけになる」ということわざを聞いたことはないでしょうか。宮崎市をはじめ県の中部で言い伝えられているようです。利用者様に聞いてみると、「うん、そんげしよったが。竿によ、鎌をくびって(結んで)、立てよったがね」と教えて下さいます。「鎌は反対にくびってかい、それを持って風上に向かって振りよったもんじゃ」と言われる方もおられます。

 この説に科学的な根拠があるかどうかは、はなはだ疑問です。それで、「その話は本当のこつね?」と聞きましたところ、「本当じゃが、昔から『ナスの花と年寄りの言うことは千に一つのあだもない』と言うじゃろが」とのこと。うーん。

 いずれにせよ、今年は先人の言い伝えに頼りたくなるくらい、台風が本県を脅かしています。そういえば、「とうきび(トウモロコシ)がぎょうさん根を張る時は台風がよく来るとじゃ」とも教わりました。台風が来ることを予知したとうきびが、倒れないように根っこを張り巡らそうとしているのか?まこっちゃろか?とうきびがそうするかどうかはともかく、我々も日頃からの備えを怠ってはならないと思います。もちろん、台風が招かれざる客であることには違いありません。備えの一環として、鎌をよく研いでおいた方がいいのかなあ?

マラソンで脳が若返り!?

  89日付の日経新聞によると、脳の老化と若返りを調節するたんぱく質が発見されたそうです。ただし、マウスの実験での話。

 これを発表したのは産業技術総合研究所。筑波大との協同研究だそうです。たんぱく質の名前は「ウィント3」。これが記憶などにかかる海馬で新しい神経が作られるのを促進するとのこと。若いマウスでは多く、老齢では少ないこの「ウィント3」、アルツハイマー病やうつ病の治療に役立つ可能性があるというから、老健に勤める者の一人としては福音です。

 そして、何と言っても目を引いたのは「ウィント3」が「運動によって増える」というくだりです。研究では、マウスに120分のランニングを2週間させると、「ウィント3」の生産が大幅に増え、新しく生まれる神経細胞が増えたとのだそうです。これは、ランニングを続けると、脳が若返る、ということなのでしょうか?時あたかも、巷は未曾有のマラソンブーム。長年マラソンを続けている者の一人として、もしそうならば、これはすこぶる喜ばしいことと飛び上がらずにはいられません。

 しかし、そうなると、これからの老健におけるリハビリテーションのあり方はどうなるのでしょうか?認知症リハビリテーションへの取り組み強化が叫ばれている中、そのプログラムの一環として、マラソンを導入する、ということも近い将来訪れるのかも!?と思ってしまいました。当然ながら、走って鍛えられるのは脳だけではありません。脳も身体も元気になれば、老健のリハビリテーション機能は一層強化されることでしょう。「ウィント3」の今後の研究の進み具合に、要チェックです。

千慮の一失(せんりょのいっしつ)

   知恵ある者でも、多く考えているうちには、一つぐらいの思い違いや失策がある、という「史記」から出たことわざです。「だから失敗するのはしょうがないんだ」と開き直ってよい、ということではなく、「失敗しないように常日頃から気をつけましょう」という訓戒であるととらえるべきではないか、と思います。それにしても、こうも暑い日が続くと、雑念が次々と湧き出てきたり、はたまたぼんやりとしてしまったりして、ついつい集中力がとぎれがちになったりはしないでしょうか。

 パソコンの頭脳であるCPUcentral processing unit:中央処理装置)も、熱さは苦手。無理に無理を重ねると、「熱暴走」と言って、パソコンも熱中症のような症状に陥ってしまいます。自分でパソコンを作った人ならご存知かもしれませんが、CPUの処理速度を上げようと思ったら、それに見合う冷却システムを構えないと、パソコンはたちどころに高熱にうなされ、いわゆる脳死状態となってしまうのです。一般的なパソコンのそれは空冷ですが、中には水冷方式のものもあって、しっかり冷やして音も静かです。老婆心ながら申し上げると、パソコンの排気部に物を置いて塞いだり、電源が入ったままのノートパソコンをバッグにしまったりするのはやめましょう。

 さて、人間にも冷却システムは欲しいものです。時節柄、現在エコでクールなアイデア商品がいろいろと出てきています。老健施設においては、一失が千失、万失につながりかねません。活用できるものは活用して、千慮、万慮を重ねましょう。

秋立つ

 今日は立秋。暦の上では秋ということになります。実生活上は夏真っ盛り。暑い日が続いています。節電の影響で、扇風機が飛ぶように売れているそうです。(余談ですが、その昔、手持ち式扇風機のプラモデルが販売されていて、その箱に、扇風機が飛んでいる絵が描かれていました)。

 この「暦」というのは、二十四節気の事ですが、以下に示すとおり、春夏秋冬の4つの季節ごとに6つの節気があるそうです(日付は概略です)。

【春】立春(24日)、雨水(219日)、啓蟄(36日)

   春分(321日)、晴明(45日)、穀雨(420日)

【夏】立夏(56日)、小満(521日)、芒種(66日)

   夏至(622日)、小暑(78日)、大暑(723日)

【秋】立秋(88日)、処暑(824日)、白露(98日)

   春分(923日)、寒露(109日)、霜降(1024日)

【冬】立冬(118日)、小雪(1123日)、大雪(128日)

   冬至(1222日)、小寒(16日)、大寒(120日)

 こうやって見ると、今の天気は暦通りというわけではないように思えます。特に秋。近年は9月を過ぎても暑い日がずーっと続き、気がつくといきなり夏から冬に切り替わっているように思えます。秋はどこへいったのやら?

 そんな中で迎えた今年の立秋。クマゼミ達は我が物顔で大合唱し、夏を謳歌中。「秋扇(しゅうせん)」とは、秋になって用いられなくなった扇のことを言い、時に適せず役に立たないものの例えだそうですが、扇風機の売れ行きはまだ衰えを知らない様子。家電店のお立ち台に並んで扇を回し、首を振り続けるその姿に、かつてのジュリアナ東京を思い起こしてしまうのは、私だけでしょうか。

 とにかく、暑い日がまだまだ続きそうです。利用者様の健康管理に努めましょう。

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