協会活動報告

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その10)

【スピリチュアルケアにおける大切な対応】

 このスピリチュアルケアにおける大切な対応について、林先生は次の8つをスライドに示して説明しました。

(1)沈黙(待つということ)

・・・深い話しをするときに、ぽんぽん話が続かず、しばらく沈黙せざるを得ない時がある。考え込んだりする時間がある。普段は5秒間沈黙があると場が持たないが、スピリチュアルケアにおいては沈黙が続からといって無理に話をしない。気持ちの整理がつくように待つことも大事。

(2)「そうも思いたくもなりますよね」

・・・誰か、あるいは何かに対する恨みなどを訴えられると、聞く側も辛い。「そうですよね。あの人の事を恨みますよね」などと共感の言葉を返せない際。つまり”陰性感情”に対する共感を示すときには「(色々な状況を考えると)そうも思いたくもなりますよね」という言葉が大事になってくる。

(3)「つらいですよね」

(4)「つらい時には、これまで何が支えでしたか?」

(5)「これからはどうでしょう?」

(6)「なぜそんなに頑張ってきたんですか?」

(7)「なぜそんなに頑張ってこれたんですか?」

・・・生きる意味を失ったり、今までできていた事ができなくなったりして意気消沈している時にこのように尋ねると、その人が頑張ってきたことを通して感じたことや得られたことが見えてくる。

(8)「少しでも支えになれればと思っています」

・・・1回だけの関わりで力になれたと感じられるあまりないし、話を聞いてくれた人も「あまり役に立ってないな」と感じているかもしれない。しかし「少しでも支えになれればと思っています」と伝えることはできる。そしてそう伝える中で関わっていけるとよい。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その9)

【スピリチュアルコミュニケーション】

 「スピリチュアルコミュニケーションはそんなに難しいことではありません」と林先生。そのポイントを次のように示しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)愛し愛されること

・・・思いやりをもつ。自ら手伝う。

(2)赦(ゆる)し、赦されること

・・・ありのままに受け容れる。罪、恥、後悔の思いに応える。

(3)意味や目的・価値を感じられるようにする

・・・自立、自律を手伝う。

(4)誇りを感じられるようにすること

・・・その人の誇りを大事にする。

(5)希望

・・・希望を叶える。希望を支える。

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 この中で、(5)の「希望」について、「希望をかなえることができれば一番ですが。かなえることができなくても”希望を支えること”はできるかもしれません。例えばある人が『こういうことがしたい』と思っていて、それが無理かもしれないという場合、『それは無理よね』とすぐに希望を打ち砕くのではなく、『できるといいね』と思うことはできます。そして実際にできなくても、一緒にちゃんと考えてやるということは希望を支えることになります。このように『希望を与えようとする対応』は非常に大事です」と言い添えました。

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【スピリチュアルケアにおける大切な態度】

 スピリチュアルペインを感じ、生きる意味や目的を感じにくくなっている時に関わっていくことを「『スピリチュアルケア』と言います」と説明した林先生は、スピリチュアルケアにおける大切な態度として「傾聴(listening)」、「存在(staying)」、「誠実(honesty)」、「率直(openness)」、「柔軟(flexibility)」、「受容(acceptance)」、「立証(witnessing)」の7つを上げました。この中で「立証」とは、「『自分はこう思います。こう感じます』というように、自分自身の話をすること、自分自身の証(あかし)を立てること」だそうです。

 しかし、「そうは言うものの、なかなか難しいです。『早くいきたい、早くお迎えが来ればいい』と言っている人に関わって『力になれた』と思えることは少ないですよね」と切り出した林先生、「私自身、この仕事を始めた頃、『難しいなあ』と思いました。このような人達に関わってもなすすべがなく、その人達が希望を持って生きていってくれるというわけでもなかったのです。そんな時スピリチュアルケアの研修会に参加しました。そしてそこでロールプレイがありました」と、次のような体験談を紹介しました。

 林先生は「80歳後半の膵がんの女性。寝たきりで自分では何もできず、予後は一週間で『もう早くいきたい』と思っている」という設定でその役柄になりきったそうです。そしてもう一人の研修会参加者分する「傾聴役」と話をしていくわけですが、気持ちは全然変わらず、「早くいきたい。早くお迎えが来ればいいのに」とむしろ落ち込んだとのこと。ところが「”変な感覚”も同時に覚えた」というのです。それは「落ち込んでいても妙に安心して落ち込んでいけた」という感覚。それはつまり、それだけ落ち込んでいったり、不安になったりしても、目の前に聞いてくれて、気遣っている人がいたからだそうです。

「一人で考え込んで、落ち込んでいったらいたたまれない気持ちになっていたはず」と思った林先生は、このロールプレイの振り返りの際、傾聴役の相手が「全然力になれなかったね」と話したのに対し、「落ち込んだけど安心して落ち込んでいったよ」と答えたとの事ですが、「これは大きな気づきでした」と私達の前で語気を強めました。

 「私はこれまで『全然力になれなかった』、『相手が希望を持てたとは思えない』と感じていましたが、実は支えになれていたかもしれません。力になれていたかもしれません。この体験を通じて、『たとえ見た目は落ち込んだままでも関わっていこう。耳を傾けよう』という気になりました。これはとても大事なことです。みなさんも人と関わる中で『力になれない』と思うかもしれませんが、それは力になれています。是非続けて下さい」と力説しました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その8)

【大切にしたいこと、そしてスピリチュアルコミュニケーション】

 続いて林先生は「日本人が終末期に大切にしたいと考えていること」の調査結果として、次のような内容のスライドを示しました。

 初めは「多くの人に共通していること」として次の10項目があげられていました。

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 続いて「人によって重要さが異なること」として次の8項目があげられていました。

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 これらのうち赤文字で表示した内容を取り上げ「どちらについても、スピリチュアル(精神的)と感じられる内容が多いと言えます。これは霊能力者が交霊するといった特殊なものではなく、『人として根源的なもの』です」と言いながら、「マズローの欲求段階説(※)を基にした欲求の分類」のスライドを表示。これと照らし合わせながら、「『愛・所属の欲求』、『自我・自尊の欲求』、そして『自己実現の欲求』は人としての根源的欲求です。一方『生理的欲求』と『安全の欲求』は生物的欲求。この生物的欲求は人じゃなくて求めます。人が生物的なら悩むこともありませんが、人として生きて行きたいからこそ愛を求め、達成感を求め、自己実現を求めるわけです。したがって寝たきりの人達でもこういったものを求めていると思います」として、スピリチュアルコミュニケーションの重要性に言及し始めました。

(※:欲求の構造は、ピラミッドの底辺に”生理的欲求”があり、その上段に”安全の欲求”、さらに→”愛・所属の欲求”→”自我・自尊の欲求”、そして頂点に”自己実現の欲求”があるという構造をなし、下位の欲求が満足されて初めて上位の欲求が現れるという理論)

 「『人として生きてるな』と感じるために必要なものは、先に述べた『愛されているという』思いや、『評価されてるな、ほめられているな』という思い、そして『自分らしくありたいな、これは自分が作ったんだな、希望を持ちたいな』という思いです。皆さんは日々の活動の中で、それらのことを大事にされていると思います」と前置きした林先生。しかし、「こういったものは時間が限られてきたり、自分でできることが限られてきたりすると感じにくくなってきます」と述べ、「人として生きている」ということが感じられなくなったときに感じる痛みを「『スピリチュアルペイン』と言います」と紹介しました。

 「自分はもう大事にされていないな」、「もう自分なんか生きている価値もない」、「早くお迎えが来た方がいいんだ」などという言葉が出るのは、「生きる意味が見い出せていないから」とのこと。そういった時の心の痛み、つまり「スピリチュアルペイン」を、「感じるようになってから、それらを落ち着き戻していくことはとても難しいと思います。ですから、『人として生きている』ということが感じにくくなってから関わり始めるのではなく、その前から普段から大事にしている優しさや希望を意識しながら色々な方々と接していくことを私は『スピリチュアルコミュニケーション』と呼んで大事にしていきたいと思っています」と話すと、受講者は背筋を正して聞き入っていました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その7)

【ターミナルケアにおけるコミュニケーション】

看護介護研究部会主催の「高齢者のターミナルケア研修会」。東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生による講演は、高齢者緩和ケアの倫理や、ホスピス緩和ケアを提供する形態、がん医療と緩和医療、ケア・介護の関係などと進み、老健施設で働く私達にとって非常に大事なコミュニケーションについての話に移りました。

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 コミュニケーションスキルの基本である「『傾聴』『共感』『感情への対応』」をスライドに示したのに続き、「『傾聴』はコミュニケーションの出発点です」。様々な問題を抱えている患者や家族が口にできなくても、「もう少し聴かせて下さい、教えて下さい」と聞いて欲しいところまで踏み込む「積極的傾聴」を行うことで、自分を安全な状態においたままで話せるところまで話してもらえることがあるとのことでした。

 また、「一番気がかりなことは何ですか?」とも尋ねるそうですが、その中で楽しみにしていることも聞くとのこと。「辛い事だけ聞いていると、痛みの治療だけに専念してしまい、かなえたいことがかなえられないこともあります」と説明に、患者やその家族のQOLをおもんぱかろうとする林先生の姿勢が伺われました。

 次に「共感」については「一番大事なのは『私達がわかること』ではありません。患者や家族に『この人に伝わったのだ、わかってもらえたのだ』と思ってもらえることです。それにより『ああ、この人なら何とかしてくれるんじゃないか』と感じてもらえます。そうでなければ『この人に何を話してもわかってもらえない』となります」と説明。”オウム返し”が基本で、「そうだったんですね。辛かったんですね。そうも思いたくなりますよね」など、「伝わりました」という言葉をきちっと返すことの大切さを指摘する一方で、「『”伝わったんだ”ということを伝える』ことを意識して行うように心掛けて下さい。『言わなくても伝わっているだろう』ではいけません」と念を押しました。

 「感情への対応」に関しては、「病気などの大きな出来事に対して泣きたくなったり、怒りたくなったりすることがあるかもしれませんが、これは当然のことです。これに対して通常のコミュニケーションだと私達はなだめようとします。しかし場面場面で悲しい事や悔しい事が起こっている時には『そのように思われても当然だろうな』という部分もあります。ですから『それは悲しいですね、悔しいですね』とそのような感情の動きを受け止めることが大切です。いきなり励ますのは否定になってしまいかねません。まず受け止めた上で、『でも力になっていきますからね』と励ましていくことが大事です」と患者や家族の感情の動きをまず受け止めてから支えていくことの重要性を強調しました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その6)

【エビデンスではない難しさ:ひとのきもち】

続いて林先生は「エビデンス(根拠)ではない難しさ:ひとの気持ち」というスライドを示して話し始めました。緩和ケアにおける患者や家族の「手を尽くして欲しい」という気持ちにどう応えていくか、ということに関する話でした。「同じ説明をして、同じ治療をしても、大病院だったら納得してもらえるのに、小さい病院だと納得してもらえない、ということはよくあります。そういうことがないように、話し合いの中で研究結果を示すことが大事です」、また「家族だけでなく、『手を尽くせたか?これでいいのだろうか?まだできたんじゃないのか?』などという医師や看護師、介護士の気持ちも非常に大事です。不全感を抱えたまま皆さんが仕事をするのはストレスになります。『これで良かったんだ』というプロセスをとっていくこと、そしてそのための話し合いを定期的に持つことが大事です。私たちもミーティングを定期的に設けています」という説明に、うなずく受講生の姿も多数見受けられました。

また、「高齢者を見捨てる無言の圧力があります」と林先生。これは胃ろうや人工呼吸器により活動的な生活を送っている人たちがいる一方で、「胃ろうはしない方がいいのではないか?」、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人に人工呼吸器をつけるのは良くないのではないか?」などといった議論が行われている事から、「実際胃ろうや人工呼吸器をして治療を受けているのに、実際は『それをするな!』という無言の圧力を感じる患者や家族もいるのも事実」とのこと。

これに対して林先生は、「ALSで人工呼吸器つけながら車いすに乗って会議に出たり積極的に活動している人を私は知っています。そういう人たちは『ALSの人に人工呼吸器をつけて無理な延命をするのは非人道的だ』という声には賛成し辛いわけです。声は出せなくても、ちゃんとまばたきをして意思疎通して人たちの存在を私たちは忘れてはいけません。『これこれこうこうだから呼吸器をつけてはだめだ』と画一的に考えるのではなく、その人と話し合って、その人の事を総合的に考えることが大事です」と、「個別性」が重要であることを力説しました。

 さらに現状として、治療の差し控えや中止は一概に許されるものとも言い切れない法律的なあいまいさ(日本ではまだ十分整っていないとのこと)があることや、「死を避けたい」という文化があること等についても説明がありました。

ただし、日本ではまだ制度が十分整っていないながらも、現在専門の相談員を育成する動きがあることを紹介し、「皆さんの現場の悩みも、なくなることは無いと思いますが、悩みが減るように話し合える場が増えてくると思います」と今後の展望について見解を示しました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その5)

ACPに関する研究】

 このように、「自分が望む最期の迎え方ができるよう、これからの過ごし方を話し合う」というACP、つまり「アドバンスケアプランニング(Advance
Care Planning)」について、

その概要や目的、ポイントなどについて説明した林先生。続いてACPに関する研究に関し、スライドを用いながら次のように言及しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○腎不全など、非がんでは予後の判断が難しく、決まった方法がない。想像よりも悪い、「認知症」は「終末期疾患である」ことが認識されていない。

○訓練を受けたファシリテーター(これからの過ごし方を考える人)が定期的に、時間をかけて相談することで、治療に対する希望を記載しておいて、意思表示が医療責任者に伝わるようにアレンジすることで、希望が尊重される。結果として、「不本意な終末期」を迎えることを減らすことができる。日本でも予備的に成功している(このファシリテーターの育成について、閣議決定はまだだが、ここ数年のうちに何らかの方針が出るのではないか、とのこと)。

○方法としては、ビデオを使うと状況がより詳細に伝わるようだ(心臓マッサージを”マッサージ”、つまり心地よいものと思っている人もいるので、ビデオで見てもらうこともあるとのこと)。

○施設で看取りを行えるようにするため、施設内にプロジェクトチームを置いたり、専門チームによりサポートすることは有用なようだ。

○病院での倫理判断のためのツールや専門チームの介入も、不本意な終末期延命治療を避けることができる。

○しかし、これらは普及に非常に時間がかかるので、「意思表示」ということならば、「医師が積極的に関わること」を盛り込むことで対処しようという方向性もある(POLST:ポルスト、Physician
Orders for Life-Sustaining Treatmentの略、”生命維持治療のための医師指示書”)。

○地域全体に、ということであれば、医師だけでなくて、患者自身に受診前に情報提供すると少し良い。

○一般邸な希望を聞いても結局病状によって細かく違ってしまうので、「患者の意思表示をあらかじめ聞く」ではなく、家族に介入する。病状によって細かい仮想状況もとに患者の希望が家族にわかるような教育介入を行うことで、家族が希望を推し量りやすくなることを目的とする。

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 事前指示書、そしてエンディングノートなどについては市販のものやインターネットからダウンロード可能なものあるので、それらのものを活用することで家族と話し合うきっかけになるとのことでした。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その4)

ACPとは】

  看護介護研究部会主催の「高齢者のターミナルケア研修会」。東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生による講演は”ACP“についての内容に入りました。「『ACP』と聞いてもあまりピンと来ないと思いますが」と前置きし、林先生は次のようなスライドを示して話し始めました。

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この「ACP」とは「アドバンスケアプランニング(Advance
Care Planning)」の略で、「これからの過ごし方を話し合う」とのこと。そして、「DNARDo Not
Attempt Resuscitation)」は”リビングウィル(Living Will)”と同じようなもので”蘇生術(心臓マッサージや気管内挿管、人工呼吸など)を受けるかどうか”を話し合うこと。またアドバンスディレクティブ(Advance
Directive)は「自分が意識がなくなった時にこういう過ごし方をしたい」というのを自分で文書に残すこと(事前指示書)だそうです。そしてACPは「これからの過ごし方を一緒に考えましょう」というもので、文書に残すかどうかを問うものではなく、「話し合うこと」を言うのだそうです。

アドバンスディレクティブは一人で作成して残すものなので、他の人に伝わらない可能性があり、自分が望む最期を迎えられない可能性があるため、アドバンスケアプランニング「ACP」が出てきたそうです。これは「自分で意識がなくなった時や意思決定能力がなくなったとき、それ以上回復の見込みがなくなったときなどに、どういった事を大事にしたいか?どういうふうにしてほしいか?」などを「意識があって話し合える時に」話し合う、将来に向けてケアを計画するプロセスで、治療法の選択だけでなく、全体的な目標も立てるとのことです。また、一回きりではなく、意識や意思決定能力があれば何回も話し合って、内容を変更することができるものだそうです。

ただしACPは日本ではまだあまり普及していないとのこと。「作るのが怖い」「回復の見込みがあるのに、回復の手立てを施してもらえないのではないか?」「自分は意識があって本当は言いたいことがあるのに、拒否されるのではないか?」などと思われがちで、話し合いをすることに「気が進まない」というのが現状だそうです。

しかし、「話し合いは何回でもできるし、書き直しは何ででもできますから、あたかも契約書みたいに、『一度書いたらその通りにしないといけない』と思う人も多いのですが、書き直しは本当にいつでもできます。そしてなるべく直近で作ったものの方がその人の気持ちがわかります」と林先生。誕生日ごとなど、定期的に書き直す人もいるとのことでした。

そしてこのACPで一番大事なのは「自分一人でなく家族も一緒に話し合う」ということ。そのことによりたとえ自分の意識がなくなっても、「あのときはこんなふうに言ってました。こんなことを考えていました」と伝えることができ、その人の気持ちを大事にしてくれるからだそうです。「死について話をすることは気が進まないかもしれませんが、例えば病院を舞台にしたドラマで誰かが亡くなる場面を見ながら『あんな最期がいいね、ああやっていけるといいね』などと死にまつわるような出来事を語り合ってもいいわけです。そういったものが何もなければ何もわかりません。重要なのは書類を作ることが目的ではなく、一緒に話し合っておくことです」と林先生は何度も強調しました。

なお老健施設に勤務する者として関係の深い認知症の人の場合について、林先生は「その人と話し合うことがなかなかできない場合があります。そういうときは家族と話し合いますが、私たちは2つのことを聞きます。一つ目は家族としての気持ち。『こういう状況でこういう治療法がありますかどう思いますか?』と聞きます。そしてそれだけではなく二つ目には、『もし患者さんがここで意識があったとしたら、どんなことを言うでしょうか?患者さんだったらどう思うでしょうか?』ということを別に分けて聞きます。家族に患者さんの気持ちを推測してもらいます。この両方が大事です。そうすると家族は責任を一人で負わなくてもよくなります。スタッフも一緒になって話し合い、患者さんの気持ちを推測してもらうことで『自分が決めたけどよかったのだろうか?』と良心の呵責にさいなまれずにすみます。これは大きなことです」と、これら一連のプロセスの重要性を説明すると、受講者はそれぞれの施設での利用者や家族への対応を振り返りながら聞き入っていました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その3)

緩和医療やターミナルケアを行う上で大事なことは「人が暮らす、人が生きるということを支えることです。これは皆さんも一緒だと思います。病気のある人が、病気を持ちながらどうやって生きて行けるか?を考え、支えることが大事です」と林先生。その中で「家庭の平和を守ることだけでも大変です。数年来行き来していない家族がいたり、連絡がない家族がいたりする場合もあります。そういう家族達が和解したいとか、今のうちに仲直りしたい、という気持ちがあれば、その仲介役ができればいいと思います」と、患者の病気そのものではなく、病気をもっている一人の人間およびその家族を支えていく事の大切さを説きました。

またこれに関して、「緩和医療は痛みを取るのが目的ではなく、痛みが障害になっている普段の暮らし、そしてその人が求める暮らしを取り戻すのが目的です」と前置きし、こんなたとえ話を交えて説明しました。

「ある患者さんが痛みを取ってほしいと来院されたとします。入院して検査をして治療していたとします、ところが、その患者さんの痛みを取る目的は『週末に行われる孫の結婚式に出たい。その式場で2時間座っていたい。そのために痛みを取って欲しい』というものだったのです。それを知らずに痛みを取ることだけを目的にした入院が週末も続いた結果、結婚式に出られなかったとなれば、何のために入院していたかわかりません。本末転倒ですね」・・・。納得する受講者一同に林先生は「痛みをとるだけではありません。患者さんが『辛い』とおっしゃるときは、なぜそれが問題なのか?何が生活の支障になっているのか?などを考えなくてはならないといつも考えていますし、それが私たちの使命です。患者の要望を聞いて、それをかなえることが大事です」と付け加えました。

これに続き、や高齢者の緩和ケアについて国際的な取り組み状況や胃瘻(いろう)とQOL(生活の質)との関係、急変時の対応、肺炎と脱水の治療について学びました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その2)

【ホスピス・緩和ケアとは】

緩和ケアは中世ヨーロッパで、「死にゆく人」のケアから始まったそうです。十字軍の遠征で傷ついた兵隊や、疲れた旅人、病人などの安らぎと必要な援助を施すためにホスピスが設けられたとの事ですから、千年くらいの歴史があることに驚きを覚えました。

そして林先生は緩和医療について「ちょっと古いのですが」と前置きし、「緩和医療(Palliative
Care)とは、治癒を目的にした治療に反応しなくなった患者に対する積極的で全人的なケアであり、痛みや他の症状コントロール、精神的ケア、社会的、霊的な問題のケアが第一の課題となる。緩和医療は疾患の初期段階においても、癌治療の過程においても適用される」という1990年のWHOの定義を示しました。この中で林先生は「画期的な事」の一つとして、「積極的で全人的に」関わろうとしたことをあげました。「息を引き取ろうという人に積極的に関わるのはあまり意味のあることではない」とされていた従来の考え方を大幅に見直したのがこの定義だったそうです。また人の辛さを、痛みや日常生活動作の低下などの身体的苦痛だけでなく、社会的苦痛(経済的問題や家庭内の問題など)、精神的苦痛(不安、孤独感など)、スピリチュアルペイン(人生の意味への問い、罪の意識など)など、その人をとりまく全人的な苦痛を捉え、支えていくということについては、「これは今も変わりません。私自身とても大事にしていることです」と強調しました。

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これに続き、2002年のWHOの緩和ケアの定義を、スライドを用いて「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」と紹介しました。この特徴の一つは、1990年の定義がターミナルの人が対象だったのに対して「生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族」としたこと。つまり「治らない人、ターミナルの人だけでなく、良くなるかもしれない人も色々な問題があります。病気になって最初から痛くてたまらない人もいます。治療のために仕事も辞めないといけなくなったりして一気に家族の生活が乱れる人もいます。そういう人たちやその家族にはじめから関わるのが緩和ケアです」と、対象の幅がターミナルの人に限定しない点を強調しました。

もう一つの大事な特徴として「予防も入ってきました」と林先生。「緩和医療というと、痛みが出たり、息苦しさが出たらそれを和らげるというように、何か問題が出てから対応するといった後手後手のものではなく、予防もできるのです。例えば癌が骨に転移すると痛みが出たり、骨折する人もいますが、それらの身体の症状が出る割合を減らす治療法もあります。また身体面だけでなく、『こういう症状の人たちは、心の辛さが強くなりがちだ』とか、『この患者さんがなくなるとご家族はとても辛い心の状態になるな』ということもわかってきています。そこでそういう人たちにあらかじめ関わって、心の辛さやショックを和らげるというようなこともしています。このように、死を間近にした患者さんと家族を早くから見ていくことが大事です」と、患者本人だけでなくそのご家族も、そして心身両面をサポートしていくという説明に、受講者は緩和ケアの奥深さを知りました。

そして林先生は、医師や看護師、介護食、リハビリスタッフ、栄養士、ソーシャルワーカーなどたくさんの専門職が輪になって患者と家族を取り囲んでいるスライドを示し、「緩和ケアは決して一人ではできません。みんなが専門性を持ち寄って患者や家族の暮らし全般を支えていくことが重要です。また大変な時やうまくいかないときに、スタッフ間で苦労を分かち合える仲間という意味でも大事です」と、専門性を持ち寄るとともに、苦労と喜びを共有できるようなチーム医療が大切だと、会場を見渡しながら言い添えると、受講者は身を引き締めて聞き入っていました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その1)

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 (公社)宮崎県老人保健施設協会看護介護研究部会は223日、宮崎市の古賀総合病院で研修会を開き、高齢者のターミナルケアについて学びました。県内会員施設や特別養護老人ホーム、病院関係者など64人が受講しました。

今回の研修会は同部会が行ったアンケートの中で、「ターミナルケアについて学びたい」という声が高かった事を受けて開催したもの。開会に当たり、同部会の仮屋美喜子委員長は「団塊の世代が75歳を迎える2025年問題に向けて地域包括ケアシステムの構築が進められていますが、老健も高齢者を看取っていかなくてはいけない時代に入ってきます。今日の研修会ではターミナルケアについての考え方を学んでいって欲しいと思います」と、老健施設におけるターミナルケアの重要性がますます高まっている背景に触れながら挨拶しました。

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講師には東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生にお越し頂きました。ところが、「いつもは標準語でしゃべっちょっとですけどね、今日は皆さんがたのための特別バージョンです。と言っても、ついさっきまで実家にいたからこげなもんじゃっとですけど」と話し出した林先生。それもそのはず、林先生は都城市のご出身。県立都城泉ヶ丘高等学校、そして宮崎医科大学医学部(現 宮崎大学医学部)で学び、卒業されました。林先生の優しく、親しげな話しかけに、会場は和らいだ雰囲気になりました。

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ご存じの方も多いかと思いますが、林先生のご活躍ぶりは2007年に毎日放送の「情熱大陸」で特集された他、各種メディアでも紹介されています。またネットで「林章敏」で検索すると膨大な数の情報がヒットします。多数の書籍も著されるなど、大変お忙しいスケジュールを縫ってお越し下さった林先生の、2時間にわたる講演、「高齢者のターミナルケア」が始まりました。

(つづく)

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