協会活動報告

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その6)

【エビデンスではない難しさ:ひとのきもち】

続いて林先生は「エビデンス(根拠)ではない難しさ:ひとの気持ち」というスライドを示して話し始めました。緩和ケアにおける患者や家族の「手を尽くして欲しい」という気持ちにどう応えていくか、ということに関する話でした。「同じ説明をして、同じ治療をしても、大病院だったら納得してもらえるのに、小さい病院だと納得してもらえない、ということはよくあります。そういうことがないように、話し合いの中で研究結果を示すことが大事です」、また「家族だけでなく、『手を尽くせたか?これでいいのだろうか?まだできたんじゃないのか?』などという医師や看護師、介護士の気持ちも非常に大事です。不全感を抱えたまま皆さんが仕事をするのはストレスになります。『これで良かったんだ』というプロセスをとっていくこと、そしてそのための話し合いを定期的に持つことが大事です。私たちもミーティングを定期的に設けています」という説明に、うなずく受講生の姿も多数見受けられました。

また、「高齢者を見捨てる無言の圧力があります」と林先生。これは胃ろうや人工呼吸器により活動的な生活を送っている人たちがいる一方で、「胃ろうはしない方がいいのではないか?」、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人に人工呼吸器をつけるのは良くないのではないか?」などといった議論が行われている事から、「実際胃ろうや人工呼吸器をして治療を受けているのに、実際は『それをするな!』という無言の圧力を感じる患者や家族もいるのも事実」とのこと。

これに対して林先生は、「ALSで人工呼吸器つけながら車いすに乗って会議に出たり積極的に活動している人を私は知っています。そういう人たちは『ALSの人に人工呼吸器をつけて無理な延命をするのは非人道的だ』という声には賛成し辛いわけです。声は出せなくても、ちゃんとまばたきをして意思疎通して人たちの存在を私たちは忘れてはいけません。『これこれこうこうだから呼吸器をつけてはだめだ』と画一的に考えるのではなく、その人と話し合って、その人の事を総合的に考えることが大事です」と、「個別性」が重要であることを力説しました。

 さらに現状として、治療の差し控えや中止は一概に許されるものとも言い切れない法律的なあいまいさ(日本ではまだ十分整っていないとのこと)があることや、「死を避けたい」という文化があること等についても説明がありました。

ただし、日本ではまだ制度が十分整っていないながらも、現在専門の相談員を育成する動きがあることを紹介し、「皆さんの現場の悩みも、なくなることは無いと思いますが、悩みが減るように話し合える場が増えてくると思います」と今後の展望について見解を示しました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その5)

ACPに関する研究】

 このように、「自分が望む最期の迎え方ができるよう、これからの過ごし方を話し合う」というACP、つまり「アドバンスケアプランニング(Advance
Care Planning)」について、

その概要や目的、ポイントなどについて説明した林先生。続いてACPに関する研究に関し、スライドを用いながら次のように言及しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

○腎不全など、非がんでは予後の判断が難しく、決まった方法がない。想像よりも悪い、「認知症」は「終末期疾患である」ことが認識されていない。

○訓練を受けたファシリテーター(これからの過ごし方を考える人)が定期的に、時間をかけて相談することで、治療に対する希望を記載しておいて、意思表示が医療責任者に伝わるようにアレンジすることで、希望が尊重される。結果として、「不本意な終末期」を迎えることを減らすことができる。日本でも予備的に成功している(このファシリテーターの育成について、閣議決定はまだだが、ここ数年のうちに何らかの方針が出るのではないか、とのこと)。

○方法としては、ビデオを使うと状況がより詳細に伝わるようだ(心臓マッサージを”マッサージ”、つまり心地よいものと思っている人もいるので、ビデオで見てもらうこともあるとのこと)。

○施設で看取りを行えるようにするため、施設内にプロジェクトチームを置いたり、専門チームによりサポートすることは有用なようだ。

○病院での倫理判断のためのツールや専門チームの介入も、不本意な終末期延命治療を避けることができる。

○しかし、これらは普及に非常に時間がかかるので、「意思表示」ということならば、「医師が積極的に関わること」を盛り込むことで対処しようという方向性もある(POLST:ポルスト、Physician
Orders for Life-Sustaining Treatmentの略、”生命維持治療のための医師指示書”)。

○地域全体に、ということであれば、医師だけでなくて、患者自身に受診前に情報提供すると少し良い。

○一般邸な希望を聞いても結局病状によって細かく違ってしまうので、「患者の意思表示をあらかじめ聞く」ではなく、家族に介入する。病状によって細かい仮想状況もとに患者の希望が家族にわかるような教育介入を行うことで、家族が希望を推し量りやすくなることを目的とする。

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 事前指示書、そしてエンディングノートなどについては市販のものやインターネットからダウンロード可能なものあるので、それらのものを活用することで家族と話し合うきっかけになるとのことでした。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その4)

ACPとは】

  看護介護研究部会主催の「高齢者のターミナルケア研修会」。東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生による講演は”ACP“についての内容に入りました。「『ACP』と聞いてもあまりピンと来ないと思いますが」と前置きし、林先生は次のようなスライドを示して話し始めました。

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この「ACP」とは「アドバンスケアプランニング(Advance
Care Planning)」の略で、「これからの過ごし方を話し合う」とのこと。そして、「DNARDo Not
Attempt Resuscitation)」は”リビングウィル(Living Will)”と同じようなもので”蘇生術(心臓マッサージや気管内挿管、人工呼吸など)を受けるかどうか”を話し合うこと。またアドバンスディレクティブ(Advance
Directive)は「自分が意識がなくなった時にこういう過ごし方をしたい」というのを自分で文書に残すこと(事前指示書)だそうです。そしてACPは「これからの過ごし方を一緒に考えましょう」というもので、文書に残すかどうかを問うものではなく、「話し合うこと」を言うのだそうです。

アドバンスディレクティブは一人で作成して残すものなので、他の人に伝わらない可能性があり、自分が望む最期を迎えられない可能性があるため、アドバンスケアプランニング「ACP」が出てきたそうです。これは「自分で意識がなくなった時や意思決定能力がなくなったとき、それ以上回復の見込みがなくなったときなどに、どういった事を大事にしたいか?どういうふうにしてほしいか?」などを「意識があって話し合える時に」話し合う、将来に向けてケアを計画するプロセスで、治療法の選択だけでなく、全体的な目標も立てるとのことです。また、一回きりではなく、意識や意思決定能力があれば何回も話し合って、内容を変更することができるものだそうです。

ただしACPは日本ではまだあまり普及していないとのこと。「作るのが怖い」「回復の見込みがあるのに、回復の手立てを施してもらえないのではないか?」「自分は意識があって本当は言いたいことがあるのに、拒否されるのではないか?」などと思われがちで、話し合いをすることに「気が進まない」というのが現状だそうです。

しかし、「話し合いは何回でもできるし、書き直しは何ででもできますから、あたかも契約書みたいに、『一度書いたらその通りにしないといけない』と思う人も多いのですが、書き直しは本当にいつでもできます。そしてなるべく直近で作ったものの方がその人の気持ちがわかります」と林先生。誕生日ごとなど、定期的に書き直す人もいるとのことでした。

そしてこのACPで一番大事なのは「自分一人でなく家族も一緒に話し合う」ということ。そのことによりたとえ自分の意識がなくなっても、「あのときはこんなふうに言ってました。こんなことを考えていました」と伝えることができ、その人の気持ちを大事にしてくれるからだそうです。「死について話をすることは気が進まないかもしれませんが、例えば病院を舞台にしたドラマで誰かが亡くなる場面を見ながら『あんな最期がいいね、ああやっていけるといいね』などと死にまつわるような出来事を語り合ってもいいわけです。そういったものが何もなければ何もわかりません。重要なのは書類を作ることが目的ではなく、一緒に話し合っておくことです」と林先生は何度も強調しました。

なお老健施設に勤務する者として関係の深い認知症の人の場合について、林先生は「その人と話し合うことがなかなかできない場合があります。そういうときは家族と話し合いますが、私たちは2つのことを聞きます。一つ目は家族としての気持ち。『こういう状況でこういう治療法がありますかどう思いますか?』と聞きます。そしてそれだけではなく二つ目には、『もし患者さんがここで意識があったとしたら、どんなことを言うでしょうか?患者さんだったらどう思うでしょうか?』ということを別に分けて聞きます。家族に患者さんの気持ちを推測してもらいます。この両方が大事です。そうすると家族は責任を一人で負わなくてもよくなります。スタッフも一緒になって話し合い、患者さんの気持ちを推測してもらうことで『自分が決めたけどよかったのだろうか?』と良心の呵責にさいなまれずにすみます。これは大きなことです」と、これら一連のプロセスの重要性を説明すると、受講者はそれぞれの施設での利用者や家族への対応を振り返りながら聞き入っていました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その3)

緩和医療やターミナルケアを行う上で大事なことは「人が暮らす、人が生きるということを支えることです。これは皆さんも一緒だと思います。病気のある人が、病気を持ちながらどうやって生きて行けるか?を考え、支えることが大事です」と林先生。その中で「家庭の平和を守ることだけでも大変です。数年来行き来していない家族がいたり、連絡がない家族がいたりする場合もあります。そういう家族達が和解したいとか、今のうちに仲直りしたい、という気持ちがあれば、その仲介役ができればいいと思います」と、患者の病気そのものではなく、病気をもっている一人の人間およびその家族を支えていく事の大切さを説きました。

またこれに関して、「緩和医療は痛みを取るのが目的ではなく、痛みが障害になっている普段の暮らし、そしてその人が求める暮らしを取り戻すのが目的です」と前置きし、こんなたとえ話を交えて説明しました。

「ある患者さんが痛みを取ってほしいと来院されたとします。入院して検査をして治療していたとします、ところが、その患者さんの痛みを取る目的は『週末に行われる孫の結婚式に出たい。その式場で2時間座っていたい。そのために痛みを取って欲しい』というものだったのです。それを知らずに痛みを取ることだけを目的にした入院が週末も続いた結果、結婚式に出られなかったとなれば、何のために入院していたかわかりません。本末転倒ですね」・・・。納得する受講者一同に林先生は「痛みをとるだけではありません。患者さんが『辛い』とおっしゃるときは、なぜそれが問題なのか?何が生活の支障になっているのか?などを考えなくてはならないといつも考えていますし、それが私たちの使命です。患者の要望を聞いて、それをかなえることが大事です」と付け加えました。

これに続き、や高齢者の緩和ケアについて国際的な取り組み状況や胃瘻(いろう)とQOL(生活の質)との関係、急変時の対応、肺炎と脱水の治療について学びました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その2)

【ホスピス・緩和ケアとは】

緩和ケアは中世ヨーロッパで、「死にゆく人」のケアから始まったそうです。十字軍の遠征で傷ついた兵隊や、疲れた旅人、病人などの安らぎと必要な援助を施すためにホスピスが設けられたとの事ですから、千年くらいの歴史があることに驚きを覚えました。

そして林先生は緩和医療について「ちょっと古いのですが」と前置きし、「緩和医療(Palliative
Care)とは、治癒を目的にした治療に反応しなくなった患者に対する積極的で全人的なケアであり、痛みや他の症状コントロール、精神的ケア、社会的、霊的な問題のケアが第一の課題となる。緩和医療は疾患の初期段階においても、癌治療の過程においても適用される」という1990年のWHOの定義を示しました。この中で林先生は「画期的な事」の一つとして、「積極的で全人的に」関わろうとしたことをあげました。「息を引き取ろうという人に積極的に関わるのはあまり意味のあることではない」とされていた従来の考え方を大幅に見直したのがこの定義だったそうです。また人の辛さを、痛みや日常生活動作の低下などの身体的苦痛だけでなく、社会的苦痛(経済的問題や家庭内の問題など)、精神的苦痛(不安、孤独感など)、スピリチュアルペイン(人生の意味への問い、罪の意識など)など、その人をとりまく全人的な苦痛を捉え、支えていくということについては、「これは今も変わりません。私自身とても大事にしていることです」と強調しました。

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これに続き、2002年のWHOの緩和ケアの定義を、スライドを用いて「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」と紹介しました。この特徴の一つは、1990年の定義がターミナルの人が対象だったのに対して「生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族」としたこと。つまり「治らない人、ターミナルの人だけでなく、良くなるかもしれない人も色々な問題があります。病気になって最初から痛くてたまらない人もいます。治療のために仕事も辞めないといけなくなったりして一気に家族の生活が乱れる人もいます。そういう人たちやその家族にはじめから関わるのが緩和ケアです」と、対象の幅がターミナルの人に限定しない点を強調しました。

もう一つの大事な特徴として「予防も入ってきました」と林先生。「緩和医療というと、痛みが出たり、息苦しさが出たらそれを和らげるというように、何か問題が出てから対応するといった後手後手のものではなく、予防もできるのです。例えば癌が骨に転移すると痛みが出たり、骨折する人もいますが、それらの身体の症状が出る割合を減らす治療法もあります。また身体面だけでなく、『こういう症状の人たちは、心の辛さが強くなりがちだ』とか、『この患者さんがなくなるとご家族はとても辛い心の状態になるな』ということもわかってきています。そこでそういう人たちにあらかじめ関わって、心の辛さやショックを和らげるというようなこともしています。このように、死を間近にした患者さんと家族を早くから見ていくことが大事です」と、患者本人だけでなくそのご家族も、そして心身両面をサポートしていくという説明に、受講者は緩和ケアの奥深さを知りました。

そして林先生は、医師や看護師、介護食、リハビリスタッフ、栄養士、ソーシャルワーカーなどたくさんの専門職が輪になって患者と家族を取り囲んでいるスライドを示し、「緩和ケアは決して一人ではできません。みんなが専門性を持ち寄って患者や家族の暮らし全般を支えていくことが重要です。また大変な時やうまくいかないときに、スタッフ間で苦労を分かち合える仲間という意味でも大事です」と、専門性を持ち寄るとともに、苦労と喜びを共有できるようなチーム医療が大切だと、会場を見渡しながら言い添えると、受講者は身を引き締めて聞き入っていました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その1)

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 (公社)宮崎県老人保健施設協会看護介護研究部会は223日、宮崎市の古賀総合病院で研修会を開き、高齢者のターミナルケアについて学びました。県内会員施設や特別養護老人ホーム、病院関係者など64人が受講しました。

今回の研修会は同部会が行ったアンケートの中で、「ターミナルケアについて学びたい」という声が高かった事を受けて開催したもの。開会に当たり、同部会の仮屋美喜子委員長は「団塊の世代が75歳を迎える2025年問題に向けて地域包括ケアシステムの構築が進められていますが、老健も高齢者を看取っていかなくてはいけない時代に入ってきます。今日の研修会ではターミナルケアについての考え方を学んでいって欲しいと思います」と、老健施設におけるターミナルケアの重要性がますます高まっている背景に触れながら挨拶しました。

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講師には東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生にお越し頂きました。ところが、「いつもは標準語でしゃべっちょっとですけどね、今日は皆さんがたのための特別バージョンです。と言っても、ついさっきまで実家にいたからこげなもんじゃっとですけど」と話し出した林先生。それもそのはず、林先生は都城市のご出身。県立都城泉ヶ丘高等学校、そして宮崎医科大学医学部(現 宮崎大学医学部)で学び、卒業されました。林先生の優しく、親しげな話しかけに、会場は和らいだ雰囲気になりました。

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ご存じの方も多いかと思いますが、林先生のご活躍ぶりは2007年に毎日放送の「情熱大陸」で特集された他、各種メディアでも紹介されています。またネットで「林章敏」で検索すると膨大な数の情報がヒットします。多数の書籍も著されるなど、大変お忙しいスケジュールを縫ってお越し下さった林先生の、2時間にわたる講演、「高齢者のターミナルケア」が始まりました。

(つづく)

苦情処理セミナー開きました(事務長会:その5)

【対応時の禁止行為・対応例】

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研修会も終盤になり、長谷 真秀美(ながたに まほみ)先生による講義は、苦情への対応方法に移りました。対応時の禁止行為として長谷先生は次の7項目をあげました。

《対応時の禁止行為》

(1)相手の主張をさえぎらない

(2)議論をしない

(3)責任転嫁をしない

(4)挑発にのらない、挑発しない

(5)頭から否定しない

(6)相手のプライドを傷つけない

(7)暴言をはかれたら、毅然とした態度で対応する

 この中で、「(4)挑発にのらない、挑発しない」については、『気に入らないのなら他の病院(老健)へ行ってくれ』とか、『あなたのような患者(利用者)はうちではみられない』などといった発言は、『診療拒否(サービス提供拒否)をした』と相手方に主張させる材料を与えることになりますので厳禁です」と釘を刺しました。

 その後、「通報するぞ」、「訴えてやる」などの”脅し文句”や、「誠意を見せろ」、「どう責任をとってくれるんだ」などの「曖昧な要求」などといった苦情内容への対応方法について、具体例を示しながら説明すると、受講者は自らの業務上の経験と照らし合わせながら学び取っていきました。

 

【患者(利用者)への対応:接遇とマナー】

研修会の最後に、長谷先生は患者(利用者)とどのような態度やマナーで接するべきかについて言及しました。

その中で患者(利用者)との接遇の心得として「誠意を持って公平に接する」、「迅速に適切な対応をする」、「明るい笑顔で親切に」の3つをあげました。また、マナーの五大要素には、(1)身だしなみ(髪型、服装など)、(2)挨拶(お辞儀、「オアシス」運動)、(3)態度(立ち振る舞い、姿勢、生活態度)、(4)言葉づかい(敬語の使い方、電話対応、対面応対)、(5)表情(明るさ、笑顔、視線)・・・の5つがあることを説明しました。

また「第一印象が重要です」とした上で、「メラビアンの法則」を紹介しました。これは、「人物の第一印象は、初めて会った時の3ないし5秒で決まり、またその情報のほとんどを視覚情報から得ている」というもので、それによると初対面の人物を認識する割合は、「視覚情報(服装・外見・表情)」が55パーセント、「聴覚刺激(話し方・声の大きさ・抑揚)」が38パーセント、そして「言語情報(話の内容)」はわずか7パーセントのみとのことでした。

これを踏まえて長谷先生は「患者(利用者)と向き合う際の自己チェックポイント」として「笑顔:相手を緊張させる表情になっていませんか?」、「まなざし:上からの『みてやっている』になっていませんか?」、「ことば:『ひとことが足りない。無意識、無自覚の『ひとこと』が胸をグサリ!』の3つを呈示しました。

そして最後に「これらを日頃から注意することで、苦情は減っていきます。患者(利用者)や家族とのコミュニケーションで心がけたいことは、『安心と信頼の関係』をつくることです。患者(利用者)や家族と”ウインウイン(Win-Win)の関係を構築していって下さい)と締めくくると、具体的でわかりやすく、実践的な内容が盛りだくさんの講義をして下さった長谷先生に、受講者から感謝の拍手が送られました。

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(おわり)

苦情処理セミナー開きました(事務長会:その4)


 続いて長谷先生は苦情対応をするにあたり、「こういう言い方はするべからず!」という禁止事項を、スライドを用いて次のように解説しました。

《苦情対応における「べからず」》

(1)「私に言われてもわかりません」

・・・患者(利用者)は医療機関(老健施設)という組織全体を一つの対象としてみている。

(2)「たぶん」、「とりあえず」、「・・・のはずだと思います」

・・・相手に「無責任だ」という印象を与える。

(3)「ですから・・・」、「何度もご説明しているのですが」

・・・言われた相手は馬鹿にされたと感じ、怒らせてしまう可能性がある。

(4)「普通は、・・・」、「他の患者さんは、・・・」

・・・相手は、異常者扱いされたと感じ、怒らせてしまう可能性がある。

 

これを踏まえ、電話対応の注意点として、「電話は声のみのコミュニケーションです。表情や身振り手振りが見えないため、声だけで意思疎通しなければなりません」と述べ、具体的には「丁寧な言葉づかいを心がける」、「外部の人に対して、身内への尊敬語は使わない」、「電話を切る際には、『失礼します』の一言を」、「保留のリミットは『30秒』」等の項目をあげて受講者に注意を促しました。

その後、具体的な電話対応の流れについて説明があり、電話に出て名乗るところから、相手の用件を把握し、その内容に応じた適切な対応をした上で終わりの挨拶を述べて電話を切るまでにおけるまでにおけるポイントを学びました。その中で長谷先生は「メモを取りながら用件を聞いて下さい。人間の記憶はあいまいですから、必ずメモをとる習慣をつけてください」、「受話器を取れば、誰しもが会社(施設)を代表して電話をかけている(受けている)ということを忘れないで下さい」など、電話対応における実際的な手法や心構えなどを詳しく解説していきました。

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(つづく)

苦情処理セミナー開きました(事務長会:その3)

【電話対応のケーススタディ】

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 苦情対応のポイントに続き、電話対応のケーススタディに移りました。DVDで「悪い例」と「良い例」をドラマ仕立てで制作された教材を観ながら、学びました。

悪い例では、処方された子供の薬の中にネジが入っていた事について、母親が問い合わせの電話を入れたところ、電話を取った女性職員が主治医につなぐため母親を長時間待たせたあげく、待たせたことへの謝罪もないまま「先生は診察をされていて電話に出られません」と身内に尊敬語を使って説明。それでまず気分を害した母親は、「それじゃあ薬剤部につないで下さい」と言うと、女性職員は要件も伝えず薬剤部に電話をつないだため、「何も聞いてないんですか!?」と母親はあきれながらも、再び同じ事情を薬剤部のスタッフに説明します。「ねじが入っていた?そんなばかな!本当ですか?まさかそんなことはあり得ないんですが・・・」と謝罪の言葉も無いどころか、相手を疑う言葉を連発。とどめにとばかり、通りがかった事情を知らぬ薬剤部長に「患者からのクレームなんですが」と受話器を押しつけます。「薬剤部長ですが、どうしましたか?」とまたまた要領を得ない切り出し、しかも「クレームなんですが」の声が母親に筒抜けだったため、怒りが頂点に達した母親は、「もういいです!!!誠意が感じられないので役所に連絡して指導してもらいますから!!!」と電話を切ったのでした。

 あまりにもひどい例に、受講者は半ばあきれながらも、これまでの自らの応対に反省点はなかったか、ふり返りながら見入っていました。

 続いて観た「良い例」では、「粉薬の1回分の量が多いのではないか?」と電話してきた母親に、女性職員は訴えを傾聴した上でまず謝罪。そして「いつ気付かれましたか?」と尋ね、健康被害の可能性を考慮し、先手を打ちます。まだ服用する前に気付いた事を確認すると「それはよかったです」と、事故が無かったことに対して共感の意を表しました。そして相手を落ち着かせながら、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを巧みに使い分けて状況を把握、主治医への確認に時間を要すると判断した彼女は、「1時間以内には連絡できると思いますので一旦電話を切らせていただきます」と断って受話器を置きました。また氏名や電話番号などの個人情報を尋ねる際には(処方内容を確認するため、折り返し電話をかけるためなど)その目的を伝え、了承を得る配慮も見せていました。その後、薬の量が多いことが確認され、彼女は母親に電話をかけ、「大変お待たせいただきました」、「やはり倍の量を出していました。大変申し訳ございませんでした」、「今後このようなことが無いように充分注意いたします」と謝罪すると、母親の表情は和らぎ、安堵の笑みが浮かびました。それで終わり、ではなく、他に言いそびれたことがないか?という最終確認を行うと、母親のわだかまりは雲散霧消。病院、そして彼女にすこぶる良い印象を残して受話器を置いたのでした。

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 思わず拍手を送りたくなるような内容のDVDでした。受講者は長谷先生の解説を聞きながら、さらに理解を深めていました。「1例目と2例目を観ていただいてわかった通り、対応のしかた一つで苦情がクレームになるか、ウィンウィンになるかが違ってきます」という説明に、大きくうなずく受講者の姿も多数見られました。

(つづく)

苦情処理セミナー開きました(事務長会:その2)

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【苦情とクレームの違い】

「苦情とクレームはちょっと違います」と話し始めた長谷先生の言葉に、受講者は耳を傾けました。その違いとは次のようなものでした。

「苦情(coplaint):医療機関、老健施設への不平・不満の表明。「訪問介護事業所のヘルパーさんの言葉遣いが良くない」、「デイサービスの送迎車の運転手の運転が下手で怖い」というのが苦情。

苦情に対しては正確かつ迅速な対応が必要。不誠実な対応をするとクレームに発展する可能性がある。

「クレーム(claim):医療機関、老健施設に対する何らかの要求行為。例えば「デイサービスでトイレ介助中に介護職員の介護技術が未熟だったため転倒させてしまい、骨折」し、クレームに。

 クレームに対しては、根拠とその妥当性の判断が必要。悪質・過度な要求に対しては特別な対応をとる。

 

【苦情対応のポイント】

 これを踏まえ、苦情対応のポイントとして、長谷先生は次の5つをあげました。

(1)何かしらの不平・不満やクレームであれば、まず謝罪する

・・・施設に非があるなら当然、状況が詳しくわからない場合でもまず謝る。施設に非がなくても、利用者に不快・不安な思いをさせたことに対するお詫びの意味で謝罪は大事。

(2)傾聴する

・・・相手を落ち着かせるためとにかく話を聞く。言いたいことを言い終えるまで反論弁解をせず、時折共感のフレーズ(「ご心配をおかけしましたね」、「ご不安だったでしょうね」など)を交える。※「聞いていますよ」という態度を示すこと!

(3)状況把握に努める

・・・一通り話を聞き、相手が落ち着いたら、状況把握のため質問形式で情報収集。

(4)事情の説明、または解決策の提案

・・・ささいな行き違いがあり、その場の説明で済むと思われる場合には施設の事情やその理由などを自ら説明して了解を得る。何らかの確認や具体的な対応が必要な場合、次にとるべくアクションを忘れない。

(5)最後の一言を忘れない

・・・陳謝の言葉、感謝の言葉を忘れないこと。また再発防止の姿勢を表明する。

 

 この説明の中で、長谷先生は「”傾聴”の体験をしていただきたいと思います」と、受講者に21組になってもらいました。これは、一方が「最近起こった楽しいこと」を2回、それぞれ3分間ひたすら話し、他方がそれを

 ○1回目:「そんな話聞きたくない」という態度を示して聞く

 ○2回目:「話を聞かせて下さい」という態度で一生懸命聞く

という方法で行われました。

 

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(↑1回目の様子。片肘ついた態度に「なんか話しにくいなあ」)

 

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(↑2回目の様子。話す相手を見つめて聞き入る態度に思わず身振り手振りが)

 

受講者からは「1回目ではとても悲しくなりました。せっかく楽しい話をしているのに、なんでそんな態度をとるのだろう、と涙が出そうになりました」などの感想が聞かれました。これを受けて長谷先生は、「話を聞かない態度には色々なやり方があります。そっぽを向いたり、足や手を組んだり、何かをしながら聞いたりすると『あなたの話を聞いていませんよ』という態度になります。『傾聴する』には、相手の目を見て、『一生懸命聞いてますよ』と伝えて聞いていくことがとても大事になってきます」と説明。利用者やご家族、あるいは職員同士で話をする上で、傾聴することの大切さを学ぶ貴重な体験となりました。

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(つづく)

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