第15回大会開きました(その15)

 石川智信理事長による市民公開講座「最期まで住み慣れた家で過ごすということ」。「ここからが私の専門」と前置きし、在宅医療の話を始めました。まず在宅医療の歴史について、有床診療所を中心にした医療が主流で、往診が普通に行われていた1960年代、高度経済成長を背景に病院数、病床数が急速に増加し、往診医療を中心とした在宅医療が消滅、1975年を境に病院死が自宅死を逆転した1970頃からの状況、在宅医療の推進が開始され、訪問診療料の概念が構築され「新しい在宅医療元年」と称されている1986年、さらに各都道府県に「5疾病、5事業および在宅医療」について第6期保健医療計画に数値目標を設定し、盛り込むことが義務化された「新生在宅医療元年」と言われる2012年の概要等がスライドを用いて説明がありました。

これを踏まえて1994年11月に開設した無床診療所いしかわ内科について話が進みました。「開業は全く考えていなかった」という石川理事長、「しかし誰かがやらないと」という強いから開業に踏み切ったのには、勤務医時代に経験した初めての在宅での看取りが契機になったそうです。それは末期がんの男性患者の事例。妻の希望で退院、自宅に帰り娘と3人の生活を再開。亡くなるまでの8日間、家族で満たされた時間を送ることができたそうです。しかし「在宅では修羅場」と当時の様子を表現する石川理事長、「『病院だったらまだ生きていたのに、どうして連れて帰ったのか』と奥さんは親から責められていたのです。その時私は『在宅医療は中途半端じゃいけない』と思ったのです」と言葉に力を込めて語ると、参加者は神妙な面持ちで耳を傾けていました。そのような経験をした石川理事長がいしかわ内科開設にあたり「住み慣れた自宅で最後まで暮らしたいという患者を支援する」という開設理念を掲げたことをスライドに示すと、参加者は納得の表情で聞き入っていました。

内科診療所開設に続き「在宅を支えるにはリハビリが必要」と、1995年1月にデイケアを開設。また認知症の患者にも対応するため2001年には認知症患者のための祇園デイサービス開設。2013年に軽度要介護者のためのデイサービス万智、さらに2017年には失語症患者のための地域密着型デイサービス佐智を開所していったとのことでした。

(つづく)

第15回大会開きました(その14)

「老健、大改革! ~『強い老健』を目指して」をテーマに開かれた第15回公益社団法人宮崎県老人保健施設協会研究大会。最後のプログラム、市民公開講座になりました。講演テーマは「最期まで住み慣れた家で過ごすということ」。

講師は医師で医療法人社団三友会いしかわ内科の石川智信理事長。医師である石川理事長は1983年宮崎医科大学医学部(現宮崎大学医学部)を卒業。1994年に無床診療所いしかわ内科を開設し、以来在宅医療に取り組んでおられます。

東憲太郎全老健会長による基調講演にあった通り、介護保険法で介護老人保健施設の定義に「在宅支援」が明記され、その役割の更なる強化が求められている最中とあって、満席となった会場は、これまで800人を超える患者を在宅で看取られてきた石川理事長の一言一句を聞き逃すまいという参加者の熱気で包まれていました。

講演は我が国の医療制度の特徴や医療をめぐる制度改正の歴史を踏まえ、2015年度介護報酬改定において、在宅復帰を目指すリハビリテーション、生活期リハビリテーションの見直し、そして活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションなど、リハビリテーションの役割が再考され、介護老人保健施設においては在宅復帰支援機能を更に高めるため、リハビリテーション専門職の配置等を踏まえ、在宅強化型基本施設サービス費および在宅復帰・在宅療養支援機能加算について重点的に評価されるようになった事に触れ、「家でその人らしく暮らす事を支援するのが究極的目標。単に筋力を上げて歩行訓練をやるのではなく、何を意識してやるかが大事」と、家庭や地域での役割をもって活動、参加するためのリハビリが大切であると切り出しました。

そして「さらにシビアなものになりました」と2018年度の介護報酬改定におけるリハビリテーションに対する新たな指摘事項について言及。老健施設の在宅復帰に向けたさらなる取り組みを評価するとともに、「『リハビリの目的や見通しなど、医師に話して欲しい』という家族や本人の声を反映し、リハビリテーションにおけるさらなる医師の関与が求められるようになりました」と会場を見渡しながら話すと、参加者は神妙な面持ちで聞き入っていました。

(つづく)

第15回大会開きました(その13)

 研究発表と並行して「働き方改革関連セミナー」を開催しました。これは2019年4月1日から働き方関連法案が順次施行されることを受け実施したもの。

第一部は「働き方改革セミナー 導入編」として宮崎県働き方改革推進支援センターの中野 宏統括リーダーが、そして第二部は「働き方改革関連法に係る労務管理のヒントと助成金」と題し、くろひじ社会保険労務士事務所の黒肱 建代表がそれぞれ講師となり解説を行いました。

同法案の施行に伴い、各老健施設もその対応をはかりつつ、よりよい職場環境を整備することが必要となってくるため、管理職を中心に熱心な受講がありました。

(つづく)

第15回大会開きました(その10:研究大会レポート1)

基調講演終了後、午後からは研究発表に移りました。今大会には28題の研究発表が寄せられました。発表は6つの分科会が3つの会場で行われ、座長の円滑な進行のもと、演者と会場が一体となった熱心な質疑が交わされ、情報と問題意識が共有されました。その様子を3回に分けて写真(コラージュ)でレポートします。

【第1分科会「介護・看護①」の様子】

【第2分科会「リハビリテーション①」の様子】

(つづく)

第15回大会開きました(その9)

 一方、介護助手モデル事業に取り組んで見えてきた「介護現場の変化」も紹介されました。これはモデル事業を実施した老健施設の介護職員、事務長、管理職を対象に行ったアンケートによるものです。

 「周辺作業負担が軽減され、利用者へのケアの質が向上してきた」、「リスク軽減につながっている」

介護助手一人(の導入)で直接介護に関わる時間が一日あたり190分増加した」、「介護職の残業時間が削減された」、「最も大きな変化は、介護職員たちが自ら専門性をつけたいという意識が強くなってきた」などといった様々な効果がスライドに示されると、参加者は食い入るように見つめながら説明に聞き入っていました。

 「うちの施設に介護助手は20名います。介護職員は27名で、休みは週休2日ぎりぎりですが、誰も辞めないし、『働きやすい』と言います。『介護助手がいっぱいいるから雑用しなくていいし、残業しなくていい』と言います。三重県では25の老健が介護助手を導入しており、離職率は導入前の12パーセントから5パーセントに減りました」と力説する東憲太郎全老健会長。介護助手は現在25都道府県で広まっており、全国への普及に更なる意欲を示し、講演を締めくくった東会長に会場からは感謝の拍手がおくられました。

 今大会のテーマである「老健、大改革!~『強い老健』を目指して~」を受け、熱弁をふるって下さった東会長の基調講演は、この大会テーマを実現のために老健が進むべき方向性を具体的かつ詳細に示して下さったものでした。また講演終了後も、東会長は会場を回りながら参加者の質問に個別に答えるなど、懇切な対応して下さり、大変有意義な講演となりました。

(つづく)

第15回大会開きました(その8)

  東憲太郎会長の講演はさらに「介護老人保健施設リスクマネジャー」、「化学的介護の評価」、「認知症社会への対応」、「介護人材の処遇改善」などを経て、先に述べた「介護助手」について詳しく話し始めました。

 三重県老人保健施設協会では地域医療総合確保基金を活用した「元気な高齢者が支える超高齢化社会『モデル事業』」を実施。その意義は(1)介護職の業務を切り分け細分化し、その細分化した業務のうち、比較的簡単な単純作業の部分を担う「介護助手」という考え方を導入、(2)その「介護助手」の担い手として、元気高齢者を起用・・・の2つで、かつて「看護助手」の導入により、看護婦が専門性を高め、社会的地域が向上(さらに「看護婦」から「看護師」への改名にもつながった)したことを踏まえて取り組んだとのこと。

 実施に当たっては新聞折り込みチラシで事前説明会の開催を告知したところ、高い関心を集め、8つの説明会会場はいずれも定員一杯。参加した計251名のうち178名が申し込みを行い、その中から57名を採用、事業実施になったそうです。

 そして「介護助手」として働いてみた元気高齢者の感想として、「75歳になってまだ自分が働けるとは思ってもいなかった。人生に張り合いができた」、「自信がついた。少しずつ体も鍛え、これから社会や人のために役立ちたいと思うようになった」、「再び『働ける』ことの充実感を改めて感じた。働きにくることで元気をもらえた」など、介護助手となった元気高齢者本人にとって素晴らしい成果がみられていることを、東会長は胸を張って強調しました。

(つづく)

第15回大会開きました(その7)

 東会長は平成25年度から同28年度にかけて延べ32カ所、525名に実施した介護予防サロンのモデル事業について説明を続けました。体操をはじめグランドゴルフ、ハンドベル演奏の他、「お好み焼き作り(大阪)」、「梅ヶ枝餅作り(福岡)」など地域色豊かな取り組みが紹介されたあと、介護予防サロンの効果として、(1)いきいきとした(意欲の向上)、(2)新しい人とのつながりができた(関係性の創出)、(3)昔の趣味を共有できた(個性の発現)、(4)サロンの開催が楽しみになった(生活リズムの創出)・・・の4つが、参加者の声とともにスライドに示し、サロンには多様な有用性があることを力説しました。

 「運転免許返納を考えている高齢者もいる中、私の施設では『お買い物クラブ』というものを考えていて、現在準備中です」と東会長はさらに続けました。「色々な理由で買い物ができない人を、年会費を1000円で買い物に連れて行くというものです。デイケアの車を昼間使用し、曜日を決めて回り買い物をしてもらいます。また年に2回くらいは花見などの企画を考えています。生活の手段である買い物を老健が手助けする、これが本当の在宅支援です。お買い物クラブに登録してもらう人はいずれフレイルになる。すると今度は介護予防サロンに来てもらう。さらに悪くなったら私の施設の介護保険サービスを使ってもらうわけです。なのでフレイルの人や健康・自立の人を考えてもらうことが大事です。政府は認知症の人の運転免許を取り上げ、そのために自動運転の車を走らせようとしています。大変なお金がかかります。それよりも老健の送迎車でお買い物サービスをしてやるとお金はかかりません。そのことを老健から発信していくことが大切です。老健が介護予防サロンをやると色々な効果がありますが、難しいのは対象者をどうするか、フレイルの人をどうやってみつけるかということです。だからお買い物クラブをやって欲しいと思います。2つを切り離すのではなく一緒にやって欲しいと思います」と、「介護予防サロン」と「お買い物クラブ」を連動させた地域貢献活動が、真の老健の未来への投資になることを説く東会長に、参加者は自施設での実践を念頭に置きながら真剣な表情で耳を傾けていました。

(つづく)

第15回大会開きました(その6)

 「平成30年度介護報酬改定後の取り組むべき方向性について」と題し基調講演を続ける全老健の東憲太郎会長。「地域に貢献する活動イコール老健施設の未来への投資です」と切り出し、地域貢献活動について説明を始めました。そこで取り上げたのが「要介護状態になることを予防したり、生きがいや自己実現のための取り組みを支援したりすることで、その人らしい豊かな生活の実現を目指す活動」である「介護予防サロン」。

 「(介護保険は)要支援から要介護の人に報酬がつきます。お金をもらって老健は成り立っています。しかし今からはフレイルの人、そして健康・自立の人にも老健が進出することが重要です。理由はいくつかありますが、大きな理由の一つは未来への投資、利用者の囲い込みです。こういう報酬のないところで関わると、必ず関わった老健を利用するようになります。冒頭に『在宅支援がキーワード』と言いましたが、要介護認定を受ける前の人にも、『買い物に行けない』、『バスがない』、『重い物を持って帰れない』など、生活に支援を必要としている人がいます。また日本語で『虚弱』を意味するフレイルの人、たとえば要介護認定には早いけれど『よく忘れるようになった』、『よく転ぶようになった』という人に老健は何ができるでしょうか。それに対して私は『介護予防サロン』を提唱したいと思います。報酬はついていませんが、これは老健が本来するべき地域貢献です」と訴えると、参加者は高い関心を払って聞き入っていました。

(つづく)

最近の投稿

アーカイブ

カテゴリー

老健みやざきFacebook

TOPへ