このかっこいいフライングVを、多くの日本人が初めて見たのは、たぶんアメリカの伝説的(?)人気ロックバンドKISSのヴォーカル、ポール・スタンレイのそれではないでしょうか。歌舞伎のようななメイクとゴジラのような出で立ち(特にジーン・シモンズ)。20センチはあろうかと思われるブーツ。血を吐く、火を噴く、ギターを燃やす壊す、と日本人の度肝を抜いたステージに、当時のロックファンはとりこになったものですが、その時にポールが弾いていたのがフライングVだったのです。ストラップを伸ばし、ギターを下げてかき鳴らすそのスタイルも相まって、それまでのレスポール、ストラトキャスターというエレキギターの両横綱の間にどどーんと割って入ってきました。ただし、実際に買って、弾いていた人はそこまで多くなかったようですが・・・。
一方、陸上競技では、「フライング」はダメなのです。一発失格をくらうわけです。以前は1回目は許され、2回目だと、アウト(1回目フライングじゃない人でも)だったのですが、1回目にわざとフライングして他選手を動揺させる人もいるからとのことで、一発勝負となったようです。
日曜日の世界陸上。世界中が世界新を期待し、注目した100メートル男子決勝でのボルト選手。なんとなんと、そのフライングをしてしまいましたね。これこそ「千慮の一失」とでも言うのでしょうか。もちろん、失格。ユニフォームを脱いで悔しがるボルト選手の姿が、にわかに現実のものとして受け止めることができませんでした。
そんなわけでかつては、「フライング」とくれば「V」。victoryにもつながらうVだったのですが、今や、フライングは「V」じゃなくて「X」。エックスですが、バツにもつながるX。つまり、「フライングX」になってしまいました。何とも残念です。一番がっかりしているのは当の本人だと思います。立ち直るのには時間がかかるかもしれませんが、失格からの復権は、リハビリテーションの哲学とも相通ずるものがあります。世界は待っています。ロンドンオリンピックでの復活を。あの超人的な走りで、そして記憶と記録に残る走りで、私たちを再び魅了してほしいと願います。