協会活動報告

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その15)

【せん妄について】

 次にせん妄について、「一過性の意識障害です。回復可能であることを家族にも説明して下さい」と前置きし、環境の調整および家族への説明に関して、次のように説明しました。

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※せん妄は周囲を認識する意識の清明度が低下し、記憶力、見当識障害、言語能力の障害などの認知機能障害が起こる状態。通常数時間から数日の間に発現し、日内変動が大きい。

《環境調整》(米国精神医学界ガイドラインより)

○照明の調整(昼夜のめりはり、夜間の薄明かり)

○日付・時間の手がかり(カレンダー、時計を置く)

○眼鏡、補聴器の使用

○親しみやすい県境を整える

 ・・・家族の面会、自宅で使用していたものを置く。

○オリエンテーション繰り返しつける

 ・・・場所、日付や時間、起きている状況について患者自身が思い出せるように手助けする。

 

《家族への説明》

○認知症とは異なり、身体疾患や、薬剤が原因であること、原因が除去されれば回復可能であることを説明する。

○原疾患の進行による場合は、せん妄が病状進行のサインであることを説明し、家族の辛さを理解し、声かけを行う。家族が実行できる患者のケアなどを一緒に探す。

○つじつまが合わない言動は、無理に修正しようとせず、話を合わせたり、話題を変えたりする方法を推奨する。

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 このせん妄関して林先生は「自分が見ず知らずの所にぽんと置かれたようになって怖いんですよね。周りの人も覚えていず、自分のことを気遣ってくれるかどうかもわからないわけです。ですから『怖がっておられるんだな』と思って接してあげてください」と、相手を気遣った対応の必要性を説きました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その14)

【死が近づいてきたとき・・・亡くなる過程を心に置いて】

実際にターミナルケアを行った事例を、写真を交えて説明した林先生が次に示したスライドは「死が近づいてきたとき」というタイトル。そして、「死亡前一週間以内」と「死亡前48時間」の2枚で、それぞれ次のような内容でした。

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〔死が近づいてきたとき〕

《死亡前一週間以内》

○トイレに行けなくなる

○水分が飲めなくなる

○発語が減ってくる

○見かけが急速に弱ってくる

○眼の勢いが無くなってくる(注視能力の低下)

○原因の特定しにくい意識障害・傾眠傾向が出現してくる

 

《死亡48時間以内》

○一日中反応が少なくなってくる

○脈拍の緊張が弱くなり、確認が難しくなる

○血圧が低下する

○手足が冷たくなってくる

○手足にチアノーゼが認められる

○冷や汗が出現する

○額の相が変わる(顔色が変わる)

○唾液や分泌物が咽頭や喉頭に貯留し、呼気時にゴロゴロと不快な音が出現する(死前喘鳴)

○身の置き所がないかのように、手足や顔などをバタバタさせるようになる。

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 看取りの経験が無い受講者も多く、神妙な雰囲気が漂う会場を見渡しながら、林先生は穏やかな口調で次のように語りかけました。

「これらの変化は確かに状態が悪化してきたことのサインであって、これらを何とかしなければならないものではありません。変化が出てくると『何とか対処して良くしなければならない』と思うかもしれません。けれどもこれは、『人が状態が悪くなって亡くなる過程』です。決して『何とかしなければ』と焦って何とかしなければならないものではありません。『こういう過程を経て人は亡くなっていくんだな』ということを皆さんは心においてほしいと思います。」

死が近づいてきたサインを冷静に観察・確認し、最期まで愛情を持ち、親身になってケアをやり遂げることの大切さを、受講者は心に深く刻み込んでいました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その13)

【亡くなられる二日前・・・実例から学ぶ】

スピリチュアルケアは難しいことではない。利用者の日常を大切にし、笑顔と親切をもって接することが大事であることを学んだ受講者に、林先生は一枚の写真をスライドに映し出しました。それは一人の高齢の女性がベッド上で三味線を抱えているもの。ただし、一人で抱えているのではなく、よく見るとスタッフらしき人の手が”天神”(三味線の頭の部分)を支えていました。

「これは亡くなられる二日前の写真です」という説明に一同驚愕。なぜなら彼女は実に穏やかな笑顔を満面にたたえていたからです。かつて芸子さんだった彼女の「三味線が弾きたい」という希望を叶えようと、三味線を習っているスタッフが家まで取りに帰ったそうです。そして自分で持つ力すら残されていない彼女に、スタッフが力を貸して三味線を構えてもらったところを撮影した一枚とのこと。「自分で三味線を支えることができなくても、希望が叶えて差し上げたときに見せてくれたのがこの笑顔です」という説明を聞きながら、受講者は食い入るようにこの写真を見入っていました。

 次の写真は、がんの多発性の骨転移があって痛みが激しく、骨折もあり身体も自由に動かせない状態の女性。人生を悲観し、「早くいきたい!」と何度も繰り返されていたそうです。そこで林先生はボランティアで病院に来ていたメークの人に、彼女にメークをしてもらうように依頼。最初は気乗りしなかったものの、実際にメークをしてもらうことで笑顔を取り戻し、これをきっかけにボランティアが来るのを楽しみに待つようになり、自分の身だしなみも気にするようになるなど、生きる価値、生きる希望を見いだしていったそうです。写真は美しくメークしてほほえむ彼女を中心に、林先生、ボランティアスタッフ、医療スタッフなどが取り囲んでいる、暖かい雰囲気あふれる一枚でした。

 これらの写真はいずれもご本人の承諾を得て撮影し、公開したものだと断った上で、林先生はこの日の研修会で用い、説明をされました。それまでの林先生の講義の内容、そしてこれまでターミナルケアへ取り組まれてきたご尽力のほどが端的に伝わる貴重な写真でした。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その12)

QOLの構成要件に含まれる要素】

スピリチュアルケアにおいて、支えになる対応を一通り説明したのに続き、林先生は「QOLの構成要件に含まれる心理・社会・スピリチュアルな要素」として次の11項目をスライドに示しました。

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 (1)意味や役割を感じられること

 (2)希望を持って生きること

 (3)他者の負担にならない

 (4)家族との良好な関係

 (5)自立していること

 (6)人として尊重されること

 (7)人生を全うしたと感じられること

 (8)信仰に支えられていること

 (9)死を意識しないで過ごすこと

 (10)自尊心を保つこと

 (11)他者に感謝し心の準備ができること

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その上で、「このようなことを感じることができると、『日々の中で人として生きている』ということが感じられると言われています」との説明がありました。

 

【患者自身からみた気持ち】

 「けれども、そんな難しいことばかりではないこともわかっています」と林先生は、患者さん89人に「辛かったときに、どんなことが一番支えになりましたか?」直接インタビューして調べてまとめた「患者自身からみて有用だと評価されたスピリチュアルケア”全ての精神的苦悩に関すること”」というスライドを示して説明しました。

それによると、これまで説明してきた「関心をもっている事が伝わる」、「患者の意思が一番尊重される」ということよりも、「気持ちをわかって一緒に考えてくれる」や「朗らかで親切である」、そして「病気以外のことも良く聞いてくれる」という事の方が比率が高く、これらの事の方が「支えになりました」とのこと。

つまり「難しく哲学的で”スピリチュアル”ということよりも『一緒になって考えてくれて、朗らかで、親切に何でも聞いてくれること』そして皆さんの笑顔に救われているということが示されています。皆さんも利用者の日常のことを大事にしてあげてほしいと思います」と解説し、日頃からの親身になった対応の重要性を強調しました。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その11)

【時に支えになる対応】

 患者が「何もできることがなくなり、生きる意味がない」と思っている時、林先生は「ここにいるだけでも、存在するだけでも意味があるんですよ。自分の力で、これまでは何かをして、何かを生み出し、何かを伝えてきたと思いますけど、何もしなくても『伝わる』ことってすごくあるんですよ」と伝えることがあるそうです。「何もできなくなってご迷惑かけているんじゃないですか?」と家族から言われる事があるそうですが、「患者さんや利用者さんなど、その人の所に行くと”ほっとする”という人がいます。その人のところにいくだけで気持ちが優しくなれる、という人がいますよね」と受講者に考えてもらいつつ、「人は何かをしたり、話したりということに意味を置きがちですが、私は『そこにいるだけでも意味がある』ということをご家族に伝えることで、『ああ、そうなんだな』と思っていただける場合があります」と説明。その人の存在そのものが持つ意味の重さに気づき、それを大事にしながら接していくことの重要性を説きました。

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 「いろんな人の世話になるのが辛い」と思われる方に対しては、「今は私達がお世話をしていますが、いずれ私たちも世話を受けなければならないのですよ」と、世代を超えた支え合いを継承していることを伝えるそうです。またその際、「これまで、いろいろ人の世話をしてきたでしょう。今度は、自分がしてもらっていいんじゃないですか?」と言いながら、「『申し訳ない』じゃなく、『ありがとう』って言うと楽になりますよ」と、世話を受け容れる援助をし、あわせて自然に感謝できるような普段の暖かなケアを提供するなどして、依存による自己価値観の低下を辛く感じる人に対応しているとのことでした。

 また、「人に迷惑をかけている」「家族や親戚が遠くからわざわざ来てもらって申し訳ない」などと思う人への対応法について、まず「『迷惑』と『大変さ』を混合される場合があります」と指摘。その上で「確かに、お世話って楽じゃないかもしれません。だけどいやいややっているのではなく、大切な人だから自分がしたいと思ってやっているのだと思いますよ。迷惑じゃなくて、少しばかりの苦労だと思います。そして家族にとってみれば『十分やってあげられた』と思えるようにすることも大切なんですよ」と伝えるのだそうです。さらに「『悔いのない看取りはない』と言われますが」と断った上で、「家族が『あれもやってあげられなかった、これもやってあげられなかった』となると後悔が残りますよ。ですから『大変だったけどあれだけのことをやってあげられたな』と思えることで立ち直っていけることもありますよ」と伝える場合もあると紹介していただきました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その10)

【スピリチュアルケアにおける大切な対応】

 このスピリチュアルケアにおける大切な対応について、林先生は次の8つをスライドに示して説明しました。

(1)沈黙(待つということ)

・・・深い話しをするときに、ぽんぽん話が続かず、しばらく沈黙せざるを得ない時がある。考え込んだりする時間がある。普段は5秒間沈黙があると場が持たないが、スピリチュアルケアにおいては沈黙が続からといって無理に話をしない。気持ちの整理がつくように待つことも大事。

(2)「そうも思いたくもなりますよね」

・・・誰か、あるいは何かに対する恨みなどを訴えられると、聞く側も辛い。「そうですよね。あの人の事を恨みますよね」などと共感の言葉を返せない際。つまり”陰性感情”に対する共感を示すときには「(色々な状況を考えると)そうも思いたくもなりますよね」という言葉が大事になってくる。

(3)「つらいですよね」

(4)「つらい時には、これまで何が支えでしたか?」

(5)「これからはどうでしょう?」

(6)「なぜそんなに頑張ってきたんですか?」

(7)「なぜそんなに頑張ってこれたんですか?」

・・・生きる意味を失ったり、今までできていた事ができなくなったりして意気消沈している時にこのように尋ねると、その人が頑張ってきたことを通して感じたことや得られたことが見えてくる。

(8)「少しでも支えになれればと思っています」

・・・1回だけの関わりで力になれたと感じられるあまりないし、話を聞いてくれた人も「あまり役に立ってないな」と感じているかもしれない。しかし「少しでも支えになれればと思っています」と伝えることはできる。そしてそう伝える中で関わっていけるとよい。

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(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その9)

【スピリチュアルコミュニケーション】

 「スピリチュアルコミュニケーションはそんなに難しいことではありません」と林先生。そのポイントを次のように示しました。

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(1)愛し愛されること

・・・思いやりをもつ。自ら手伝う。

(2)赦(ゆる)し、赦されること

・・・ありのままに受け容れる。罪、恥、後悔の思いに応える。

(3)意味や目的・価値を感じられるようにする

・・・自立、自律を手伝う。

(4)誇りを感じられるようにすること

・・・その人の誇りを大事にする。

(5)希望

・・・希望を叶える。希望を支える。

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 この中で、(5)の「希望」について、「希望をかなえることができれば一番ですが。かなえることができなくても”希望を支えること”はできるかもしれません。例えばある人が『こういうことがしたい』と思っていて、それが無理かもしれないという場合、『それは無理よね』とすぐに希望を打ち砕くのではなく、『できるといいね』と思うことはできます。そして実際にできなくても、一緒にちゃんと考えてやるということは希望を支えることになります。このように『希望を与えようとする対応』は非常に大事です」と言い添えました。

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【スピリチュアルケアにおける大切な態度】

 スピリチュアルペインを感じ、生きる意味や目的を感じにくくなっている時に関わっていくことを「『スピリチュアルケア』と言います」と説明した林先生は、スピリチュアルケアにおける大切な態度として「傾聴(listening)」、「存在(staying)」、「誠実(honesty)」、「率直(openness)」、「柔軟(flexibility)」、「受容(acceptance)」、「立証(witnessing)」の7つを上げました。この中で「立証」とは、「『自分はこう思います。こう感じます』というように、自分自身の話をすること、自分自身の証(あかし)を立てること」だそうです。

 しかし、「そうは言うものの、なかなか難しいです。『早くいきたい、早くお迎えが来ればいい』と言っている人に関わって『力になれた』と思えることは少ないですよね」と切り出した林先生、「私自身、この仕事を始めた頃、『難しいなあ』と思いました。このような人達に関わってもなすすべがなく、その人達が希望を持って生きていってくれるというわけでもなかったのです。そんな時スピリチュアルケアの研修会に参加しました。そしてそこでロールプレイがありました」と、次のような体験談を紹介しました。

 林先生は「80歳後半の膵がんの女性。寝たきりで自分では何もできず、予後は一週間で『もう早くいきたい』と思っている」という設定でその役柄になりきったそうです。そしてもう一人の研修会参加者分する「傾聴役」と話をしていくわけですが、気持ちは全然変わらず、「早くいきたい。早くお迎えが来ればいいのに」とむしろ落ち込んだとのこと。ところが「”変な感覚”も同時に覚えた」というのです。それは「落ち込んでいても妙に安心して落ち込んでいけた」という感覚。それはつまり、それだけ落ち込んでいったり、不安になったりしても、目の前に聞いてくれて、気遣っている人がいたからだそうです。

「一人で考え込んで、落ち込んでいったらいたたまれない気持ちになっていたはず」と思った林先生は、このロールプレイの振り返りの際、傾聴役の相手が「全然力になれなかったね」と話したのに対し、「落ち込んだけど安心して落ち込んでいったよ」と答えたとの事ですが、「これは大きな気づきでした」と私達の前で語気を強めました。

 「私はこれまで『全然力になれなかった』、『相手が希望を持てたとは思えない』と感じていましたが、実は支えになれていたかもしれません。力になれていたかもしれません。この体験を通じて、『たとえ見た目は落ち込んだままでも関わっていこう。耳を傾けよう』という気になりました。これはとても大事なことです。みなさんも人と関わる中で『力になれない』と思うかもしれませんが、それは力になれています。是非続けて下さい」と力説しました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その8)

【大切にしたいこと、そしてスピリチュアルコミュニケーション】

 続いて林先生は「日本人が終末期に大切にしたいと考えていること」の調査結果として、次のような内容のスライドを示しました。

 初めは「多くの人に共通していること」として次の10項目があげられていました。

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 続いて「人によって重要さが異なること」として次の8項目があげられていました。

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 これらのうち赤文字で表示した内容を取り上げ「どちらについても、スピリチュアル(精神的)と感じられる内容が多いと言えます。これは霊能力者が交霊するといった特殊なものではなく、『人として根源的なもの』です」と言いながら、「マズローの欲求段階説(※)を基にした欲求の分類」のスライドを表示。これと照らし合わせながら、「『愛・所属の欲求』、『自我・自尊の欲求』、そして『自己実現の欲求』は人としての根源的欲求です。一方『生理的欲求』と『安全の欲求』は生物的欲求。この生物的欲求は人じゃなくて求めます。人が生物的なら悩むこともありませんが、人として生きて行きたいからこそ愛を求め、達成感を求め、自己実現を求めるわけです。したがって寝たきりの人達でもこういったものを求めていると思います」として、スピリチュアルコミュニケーションの重要性に言及し始めました。

(※:欲求の構造は、ピラミッドの底辺に”生理的欲求”があり、その上段に”安全の欲求”、さらに→”愛・所属の欲求”→”自我・自尊の欲求”、そして頂点に”自己実現の欲求”があるという構造をなし、下位の欲求が満足されて初めて上位の欲求が現れるという理論)

 「『人として生きてるな』と感じるために必要なものは、先に述べた『愛されているという』思いや、『評価されてるな、ほめられているな』という思い、そして『自分らしくありたいな、これは自分が作ったんだな、希望を持ちたいな』という思いです。皆さんは日々の活動の中で、それらのことを大事にされていると思います」と前置きした林先生。しかし、「こういったものは時間が限られてきたり、自分でできることが限られてきたりすると感じにくくなってきます」と述べ、「人として生きている」ということが感じられなくなったときに感じる痛みを「『スピリチュアルペイン』と言います」と紹介しました。

 「自分はもう大事にされていないな」、「もう自分なんか生きている価値もない」、「早くお迎えが来た方がいいんだ」などという言葉が出るのは、「生きる意味が見い出せていないから」とのこと。そういった時の心の痛み、つまり「スピリチュアルペイン」を、「感じるようになってから、それらを落ち着き戻していくことはとても難しいと思います。ですから、『人として生きている』ということが感じにくくなってから関わり始めるのではなく、その前から普段から大事にしている優しさや希望を意識しながら色々な方々と接していくことを私は『スピリチュアルコミュニケーション』と呼んで大事にしていきたいと思っています」と話すと、受講者は背筋を正して聞き入っていました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その7)

【ターミナルケアにおけるコミュニケーション】

看護介護研究部会主催の「高齢者のターミナルケア研修会」。東京都中央区にある聖路加国際病院の緩和ケア科部長、林章敏先生による講演は、高齢者緩和ケアの倫理や、ホスピス緩和ケアを提供する形態、がん医療と緩和医療、ケア・介護の関係などと進み、老健施設で働く私達にとって非常に大事なコミュニケーションについての話に移りました。

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 コミュニケーションスキルの基本である「『傾聴』『共感』『感情への対応』」をスライドに示したのに続き、「『傾聴』はコミュニケーションの出発点です」。様々な問題を抱えている患者や家族が口にできなくても、「もう少し聴かせて下さい、教えて下さい」と聞いて欲しいところまで踏み込む「積極的傾聴」を行うことで、自分を安全な状態においたままで話せるところまで話してもらえることがあるとのことでした。

 また、「一番気がかりなことは何ですか?」とも尋ねるそうですが、その中で楽しみにしていることも聞くとのこと。「辛い事だけ聞いていると、痛みの治療だけに専念してしまい、かなえたいことがかなえられないこともあります」と説明に、患者やその家族のQOLをおもんぱかろうとする林先生の姿勢が伺われました。

 次に「共感」については「一番大事なのは『私達がわかること』ではありません。患者や家族に『この人に伝わったのだ、わかってもらえたのだ』と思ってもらえることです。それにより『ああ、この人なら何とかしてくれるんじゃないか』と感じてもらえます。そうでなければ『この人に何を話してもわかってもらえない』となります」と説明。”オウム返し”が基本で、「そうだったんですね。辛かったんですね。そうも思いたくなりますよね」など、「伝わりました」という言葉をきちっと返すことの大切さを指摘する一方で、「『”伝わったんだ”ということを伝える』ことを意識して行うように心掛けて下さい。『言わなくても伝わっているだろう』ではいけません」と念を押しました。

 「感情への対応」に関しては、「病気などの大きな出来事に対して泣きたくなったり、怒りたくなったりすることがあるかもしれませんが、これは当然のことです。これに対して通常のコミュニケーションだと私達はなだめようとします。しかし場面場面で悲しい事や悔しい事が起こっている時には『そのように思われても当然だろうな』という部分もあります。ですから『それは悲しいですね、悔しいですね』とそのような感情の動きを受け止めることが大切です。いきなり励ますのは否定になってしまいかねません。まず受け止めた上で、『でも力になっていきますからね』と励ましていくことが大事です」と患者や家族の感情の動きをまず受け止めてから支えていくことの重要性を強調しました。

(つづく)

ターミナルケア学びました(看護介護部会:その6)

【エビデンスではない難しさ:ひとのきもち】

続いて林先生は「エビデンス(根拠)ではない難しさ:ひとの気持ち」というスライドを示して話し始めました。緩和ケアにおける患者や家族の「手を尽くして欲しい」という気持ちにどう応えていくか、ということに関する話でした。「同じ説明をして、同じ治療をしても、大病院だったら納得してもらえるのに、小さい病院だと納得してもらえない、ということはよくあります。そういうことがないように、話し合いの中で研究結果を示すことが大事です」、また「家族だけでなく、『手を尽くせたか?これでいいのだろうか?まだできたんじゃないのか?』などという医師や看護師、介護士の気持ちも非常に大事です。不全感を抱えたまま皆さんが仕事をするのはストレスになります。『これで良かったんだ』というプロセスをとっていくこと、そしてそのための話し合いを定期的に持つことが大事です。私たちもミーティングを定期的に設けています」という説明に、うなずく受講生の姿も多数見受けられました。

また、「高齢者を見捨てる無言の圧力があります」と林先生。これは胃ろうや人工呼吸器により活動的な生活を送っている人たちがいる一方で、「胃ろうはしない方がいいのではないか?」、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人に人工呼吸器をつけるのは良くないのではないか?」などといった議論が行われている事から、「実際胃ろうや人工呼吸器をして治療を受けているのに、実際は『それをするな!』という無言の圧力を感じる患者や家族もいるのも事実」とのこと。

これに対して林先生は、「ALSで人工呼吸器つけながら車いすに乗って会議に出たり積極的に活動している人を私は知っています。そういう人たちは『ALSの人に人工呼吸器をつけて無理な延命をするのは非人道的だ』という声には賛成し辛いわけです。声は出せなくても、ちゃんとまばたきをして意思疎通して人たちの存在を私たちは忘れてはいけません。『これこれこうこうだから呼吸器をつけてはだめだ』と画一的に考えるのではなく、その人と話し合って、その人の事を総合的に考えることが大事です」と、「個別性」が重要であることを力説しました。

 さらに現状として、治療の差し控えや中止は一概に許されるものとも言い切れない法律的なあいまいさ(日本ではまだ十分整っていないとのこと)があることや、「死を避けたい」という文化があること等についても説明がありました。

ただし、日本ではまだ制度が十分整っていないながらも、現在専門の相談員を育成する動きがあることを紹介し、「皆さんの現場の悩みも、なくなることは無いと思いますが、悩みが減るように話し合える場が増えてくると思います」と今後の展望について見解を示しました。

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(つづく)

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